自作お題小説『色』
(色)ダークブラウンの睫毛
「ねぇ、ちゃんと聞いてる?」
君は頬を膨らませて、僕を睨み付けてくる。
だけど君は僕よりも小さいから…
自然と上目使い。
睨んでるつもりのその顔も、僕にとっては可愛い以外の何でもなかった。
「聞いてるよ。」
嘘ぶいた僕の言葉。
だって…
君に見とれてたから…
流暢に動く小さな唇
大袈裟に動く無駄な動作
君が笑う度に…
焦げ茶色の髪がフワフワ揺れるんだ
僕はとっても幸せで…
ついつい君の話を聞いていなかったんだ
「本当に聞いてた?」
僕の顔に近付いて、じっと目を見てくる。
目と目が合わさって、一瞬時が止まる。
(睫毛も髪と同じ色だ…)
パシパシと瞬きを繰り返す君の瞳から延びた睫毛に気を取られる。
「何?」
いつまでも何も言わない僕に、痺れを切らした君が怪訝そうな顔をする。
「綺麗だなって思ってさ。」
素直に出た僕の言葉に、君は顔を赤らめて…
ぷいっとそっぽを向く。
「やっぱり聞いてないじゃん。」頬を膨らませながら君。
「ごめんごめん。ちゃんと聞くから。」
僕は謝って君の顔を覗き込む。
「ホントに?」
まだ疑いの眼を向けてくるから…
「ホントに。」
僕は片手をあげて誓いのポーズ。
「あのねっ。」
再び君が楽しそうに笑いながら話し始める。
僕は笑って相槌を打つ。
でも…
やっぱり動く毛先に心を奪われる。
君の持つダークブラウンは…
僕を虜にする…
フワフワと動くダークブラウンが…
パシパシと動くダークブラウンが…
僕の心を奪っていく…
終わり