自作お題小説『バカ』
(バカ)バカなんだから…
−今夜七時に駅前で待ってて−
そんなメールが私に届いたのが、今から二時間前。
仕事を終えて家に帰る間に舞い込んできた一通のメール。
(どうしたんだろう?こんな急に?)
そんな事を思いながら、一旦家に帰った。
疲れた体を休める事なく、シャワーを浴びて、出かける準備を整えた。
(ちょっと早く来すぎたかな?)
腕にはめた時計を見て思う。
時間は七時二十分前。
流れる人並みをボンヤリと見つめながら
時間が過ぎるのを待った。
「はぁ。」
ただ立ち尽くすのはやっぱり暇で…
意味も無く携帯をいじってみる。
(あれ…?もうこんな時間?)
携帯の画面の右上に表示された時間は
約束の時間を裕に越えていた。
(…今夜…って書いてあったよね?)
自問自答をしながら開いたメール画面。
そこには間違いなく『今夜七時』と書いてある。
(電話をしてみようか?)
思うのと同時に、後ろから声がした。
「お待たせ。」
振り返ると悪びれなく笑うあなた。
「遅すぎ。」
拗ねたふりをして、携帯を閉じた。
「ごめんって。それよりこっち。」
そう言って私の腕を引っ張った。
車に乗せられて、連れてこられたのは見慣れたマンション。
「ここ?」
そう聞く私にあなたは笑顔で頷く。
「自分の部屋なら、別に待ち合わせること無かったじゃない。」
文句を言いながら、あなたの部屋にあがる。
「ちょっと待って。」
部屋の電気を点けようとした私を、あなたが止める。
「何?」
不審な顔をする私を余所に、あなたは部屋の真ん中にライターを灯した。
ボンヤリと見えたそれ。
ライターの火が一つ一つ灯る毎に、全てが見えてくる。
「座って。」
あなたに促されて、あなたの向かいに腰掛けた。
「メリークリスマス。」
あなたがそう言って、「消して」とジェスチャーするので
思い切り息を吹きかける。
部屋が真っ暗になって、次の瞬間部屋の明かりが点く。
目の前のケーキ。
色とりどりの料理。
部屋の周りには、小さい頃に作った覚えのある
折り紙の輪っかのレーン。
そのいびつな形が
その懐かしい感じが
ひどく子供じみていて、可笑しくなった。
「今日、クリスマスじゃないけど?」
私の言葉にあなたは笑って『知ってる』と言った。
「クリスマスは仕事だろう?だから今日にした。」
販売業の私は、世間が休みの日は忙しい。
それを知っていてか、パーティーを今夜にしたらしい。
「クリスマスイヴイヴだよ。」
あなたが満面の笑みで、してやったりな顔をするから…
「バカなんだから…。」
私もつられて笑った。
終わり Are you happy Christmas?
作品名:自作お題小説『バカ』 作家名:雄麒