炎の華還り咲く刻
第1話 新入社員
藤原優。満十八歳。
都心を外れた郊外の高等学校を卒業したばかり。
経営難の、このご時世。
無事に就職できたのも何かの奇跡。
今日から初出勤だ。
「これで、よし。」
鏡の前に立って、もう一度ネクタイを直す。
洗面所を出た優は、部屋をぐるりと見渡した。
少し広めのワンルーム。
先日越してきたばかりだ。
念願の一人暮らしに、優は心躍らせていた。
ベランダに出ると、春の心地よい風が優の頬を撫でる。
会社に行くには少し不便なこのアパート。
しかしここに決めたのには訳がある。
優はベランダの柵に両肘を着いて、階下を見下ろした。
眼前に広がった川。
お世辞にもあまり綺麗とはいえない川だったが、
水の流れる音と、遠くから聞こえてくる子供たちの声が笑みを誘う。
「うわっ!やばい!!遅刻するっ!」
振り返って時計を見た優は、大慌てで部屋を飛び出した。
バタバタと大きな足音を立てながら、
今にも崩れ落ちそうな階段を駆け下りた。
階段を下りてすぐの場所にある駐輪場へ向かった優は、
一台のバイクの前で立ち止まった。
「これからもよろしくな。」
真っ赤な車体の自慢の愛車を撫でて、優は笑う。
就職祝いで親に買って貰ったバイクだ。
もう一度ハッとして、優はバイクに跨った。
勢いよくエンジンをかけて、優は出てきたアパートを振り返る。
「いってきます。」
軽快なリズムでアイドリングをするバイクのグリップを
力強く捻ると、真っ赤な車体がゆっくりと発進をした。
続く→