Happy Suggestion
第2話 裕人
「ヒロキさんがこの時間に、店にいるの珍しいっスね。」
グラスを拭きながら、話かけてくるのは
この店でバーテンをしている、白川 裕人だ。
「いつもは女とベッドの上だからな。」
グラスに残っていた酒を、一気に流し込んで
飄々とした表情で告げた。
「っっ/////」
裕人は顔を真っ赤にしながら、グラスを棚に並べていく。
「若いなぁ~。お前。女抱いた事もないだろ?」
喉をクツクツ鳴らしながら、ヒロキは酒をつぐ。
「彼女くらいいますよっっ。」
全てのグラスを片付けて、ヒロキに向き合う。
「へ~、そりゃぁ一度見てみたいもんだ(笑)」
ヒロキは笑いながら、酒を口に運ぶ。
「何かあったんスか?」
不意に発した裕人の言葉に、ヒロキは目を丸くする。
「何で?」
「え……っと…あんましヒロキさんが、一人でお酒飲んでる事無いから……。」
言いながら裕人は、空いたグラスに酌をする。
「一人じゃねぇじゃん?お前がいるし(笑)」
「もうっ!チャカさないで下さいよっ。心配してるんスよ?」
「ハハハ。悪ぃ悪ぃ。偶には一人で飲みたい夜もあんのよ?
大人ってのは、色々大変なんだよ。
そう言う事だからさ、お前もう上がっていいよ。後は俺がやっとくから。」
「そ……そうっスか………。」
肩を落しながら、裕人は帰り支度をする。
「それじゃぁ……お先…失礼します……。」
頭を下げた裕人に、軽く手を上げて答える。
「…………っ。」
ドアに向かった裕人が、勢い良く振り返った。
「ヒロキさんっ!」
「ん?」
ゆっくり振り返ったヒロキに、裕人は言葉を続ける。
「今度………今度っ、彼女紹介しますっっ!」
大声でそう言って、裕人は走り去った。
ヒロキの口元から、乾いた笑いが込み上げる。
何て……無垢な奴………
あんな奴が……何でこんな店で働いているんだろう?
「確か……何かのレーサーの卵だとか…言ってたっけ?」
口に出したら、余計に気分が沈む。
俺とは正反対の人種………
太陽の光がよく似合う…………
あぁなりたいとは…思わない………
だけど………
少しだけ…羨ましく思えた……………
続く→
作品名:Happy Suggestion 作家名:雄麒