Another Dream
第10夜 契約の刻(とき)
集中治療室の前を、複数の看護婦が行き来をしている。
波穏の容態が急変して、廊下には両親が泣き出しそうな顔で
その光景を見ていた。
今日がライとであった日から、丁度60日目………
「篠崎さんっっ!聞こえますかっっ!?頑張ってっっ!!」
耳の奥の方で、その声を聞いている。
口から伸びる酸素マスク。
うっすら目を開けると、部屋の隅の方に
ぼんやりとライの姿が目に入る。
〔……ラ……イ……〕
声にならない声で、名前を呼ぶと
ゆっくりと近づいて来て、顔を覗き込まれる。
〔何で…そんな辛そうな顔…してるの…?〕
今にも泣き出しそうなライの顔を見つめる。
ねぇ……………ライ…?
私は今までこの病気が憎かった………
何で私ばっかり…って思ってた………
この病気に殺されるのなんてまっぴら………
そう思ってた………
だけど………
あなたに殺されるなら………
「ライ………あなたで……良かった……………。」
マスク越しにくぐもった波穏の声。
無機質な機械音が、一つの長い音を刻み……
波穏は目を閉じた………
ライが何かを叫んだ様な気がしたが………
波穏の耳に届くことは無かった………
目の前に広がる暗闇………
夢…………?
(そういえば、私…死んじゃったんだっけ?)
暗闇の中を彷徨って………
その時急に体が引っ張られる様な感覚がする。
慌てて目を瞑って、その引力に体を預ける。
引力から開放されても、相変わらず辺りは真っ暗……
目の前に誰かの気配を感じるのだが
うつろな目がぼんやりと人影を作る程度で……
「………ぜ……お前は…………を…………んだ?」
耳の奥に聞こえた途切れ途切れの声…………
懐かしい様な声………
涙が溢れた………
頬をつたう涙をすくってくれて………
優しく頭を撫でられる………
大きい手…………
暖かく無い手……………
あぁ………………
ずっと夢の中にいたのは………あなただったのね…………
『ライ…………やっと……あなたに……逢えた……………』
終わり
作品名:Another Dream 作家名:雄麒