君に秘法をおしえよう
正宗・ラブコミュニケーション?
なんだ? また女か?
OL風の女性たちに請われて、一緒に写真を撮る暁斗を見ていた。
この間までホストをやっていたので、慣れた様子で笑っている。
暁斗がうちにやってきてから、やたらと女性が神社に集まるようになった。巫女ちゃんの女子大生から、お参りのオバちゃんに至るまで、何かとウケがよろしい。
暁斗にはリハビリをかねて、境内の掃除や、ちょっとしたイベントの手伝いをさせていた。美剣士は、当然目をひくんだな。髪も黒くなおして、散髪したから、いい感じなのだ。
最近はパワースポットめぐりなる特集も組まれているから、神社に美形がいるってのは、いい宣伝になるらしく、雑誌社から取材の申し込みも来るようになった。
「暁斗のやつ、また女に囲まれてヘラヘラ笑って。落ち葉の掃除、終わったんかね」
「いいじゃない。神社に人が沢山きてくれるってのは」
母さんは、御火焚祭の用意に忙しく、真剣に聴いてはいない。
「アンタだって、ちゃんとすれば、見栄えはいいハズなのにねえ…… そろそろコンタクトに変えたら?」
「嫌だよ、あんなもん目玉ん入れるの」
「これだから、おじいさんッ子は……若年寄り!」
「わかどしよりぃ?」
「だいたい、アンタ、昔っから大人みたいなコだったのよ。一体、誰に似たんだろ」
首をひねりながら、パタパタと母は駆けていった。
うーーー
十八歳の男子を捕まえて、おじいさん扱いとは、何たる母親じゃ。
「お手洗いは、どこですかいの?」
気付けば、おばあさんが俺の腕を掴んでいた。
「ああ、はいはい。お手洗いですね。こちらですぅ〜」
……確かに。年寄りうけは俺のほうがいいようだ。
暁斗は退院して、俺んちに迷惑をかけるのを、異常に気にしていたが、うちは、なにせ公的に開かれている宗教法人なんでね。
人間がひとりやふたり増えたってあんまし変わらないんだよ。色んな人が、出入りしているから。暁斗の部屋は客間につくった。療養も兼ねてるから、狭いスペースじゃ無理だったから。
料理好きの母は、暁斗の特別食にも燃えていた。色々工夫するのが楽しいようだ。大したことないんだ なんといっても暁斗はキレイな男の子だから、母は嬉しがっていたさ、はい。
剣道形の仕太刀四本目を終えたトコで、人の気配に気付いた。
暁斗が戸口でじっと見ていた。
俺はにっこりと笑った。
「少しやる?」
「いいの?」
「ちょっとだけ」
暁斗はものすごく嬉しそうな顔をした。うちは会合用スペースと道場を兼ねていた。練習用の木刀をもう一本手渡し、お互い向き合って構えた。
「五本目からだよね」
「いや、一本目からする。打太刀を頼む」
「はい」
諸手左上段に暁斗が構えた。
本当に美しい。彼の打ち姿の美しさは、闇夜に冴える冬の月に似ている。時々、少年らしい迷いが混じる。それさえ魅力的であった。真の剣聖はカリスマ性をもつ。
間合いをつめながら、正面を打つ。すり上げる。
……なんか
すごく、気持ちいい。楽しい。
言葉にならない、気の交流が、押しては跳ね、跳ねては押し。混じって離れ、また一体となっては薄れた。
七本目で刀が変わるので、立礼して、一旦終了。
興奮した様子で暁斗は顔を上げると、そのままふらふらと倒れた。
「おい、暁斗! 大丈夫か!」
「……うん……」
ちょっとハードすぎたか。
駆け寄って上半身を抱き寄せると、予想に反して表情が明るい。
「なんか……すっげー楽しい」
「はは…」
半分ホッとしつつ、暁斗の言葉に共感した。
「俺も。こんな形は初めてかも」
「なんかヘンな感じだよぉ…… 流れるように勝手にスルスル形がいくんだ。正宗さんに払われるのもタイミングばっちりで気持ちいいしさ。なんでかなぁ」
「愛のパワーだね」
「はっ?」
「それしか考えられない。こんなに相性があうなんて、ラブパワーしか考えられない!」
「ははは……そうかもね」
結構真剣に言ったんだけど、暁斗には軽く流されてしまった。
「正宗さんはいいなぁ……」
ゆっくりと体を起こした後、暁斗はぽつりと言った。
「両親がいて、練習場も家にあるし、剣の腕前はピカ一だし、勉強だって出来るでしょ? なんか…ズルいよ、ひとりでみんな持ってて」
「うーん……確かに、暁斗よりも恵まれた部分もあるけど、暁斗だって気付いてないだけで、いっぱい持ってるじゃん」
「何を?」
「頭いいし、カッコイイしさ。女にもてるだろ?」
「それって、思ったよりそんなにオイシクないよ。いろんな人から感情持たれるのってコワイしさ。そんなことより、健康とか安定した家庭とか、そんなの持ってるほうが、絶対にいいよ」
確かに。剣道もやれない体は悲劇だろうなぁ。
でも暁斗には、モテる以外に決定的にすごいものを持っている。
それは、気を操る高い能力と、見えないものを知る知力だ。
俺と同じ能力を持っている。いや、剣の腕前は、暁斗のほうが恐らく上だ。
ただ、まだ開花していないのだ。
自分の能力を自覚してないがゆえ、使い方をあやまると、不幸な道に入ってしまうのだ。
時々、現れる邪気は、暁斗の負の部分が結晶化したもの。負の邪気は本人を不幸や奇病に陥れる。そろそろ、何とかしなくては。
なあ、じっちゃん。
作品名:君に秘法をおしえよう 作家名:尾崎チホ