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君に秘法をおしえよう

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正宗・高めあう関係2



「やっと見つけたぞ、高原!」
「げっ、新庄」

 授業が終わり校門の外に出ると、偉丈夫の男が俺に向かって駆けてきた。180センチは優に越し、横幅もガッシリとした男が、すごい迫力でこっちに向かってくるのである。

「おまえ、なんで電話にもメールにもでないんだよ!」
「だからっ、当分手合いは休もうってメールしたじゃないか」

 逃げるように早足で歩くが、新庄は当然ついてくる。

「もう何ヶ月も前の話だろ、いい加減、次の手合いの日を決めろ、って何度もメールしたのに! 無視しやがって」

「い、いろいろ忙しかったんだよ。おまえこそ、何で俺の学校分かった」
「おまえんちのおばさんに聞いた」

 くーっ! おかんめー、余計なことを。悪気なくヘラヘラしゃべる母の顔を思い出すと腹が立った。新庄とは小学生の時からの知り合い。剣道の試合でよく会うので母とも顔みしりなのだ。

 お互い全国クラスの実力者が近くにいないので、毎月剣をまじえていた。実力向上のため、やっていたんだが、ここ数ヶ月はサボっていたんだ。


「医学部のシラバス(時間割)調べたら、入学してしばらくは結構暇そうじゃないか。そろそろ手合いの日も決められるだろう?」
「おまえは俺のおっかけか!」

「んなことより、どっかでお茶していこうぜ。都合のいい日を考えよう」
「……わかったよ」
 新庄はホッとしたような顔をした。

 駅前のセルフ式のカフェスペースに入り、新庄が注文をしている間、俺はこっそりカフェを抜け出した。だって、今はアイツとやりたくないんだよね。なんていうか……新庄の気の荒さに耐えられないっていうか。対戦しても、きっと負けると思う。基礎練習はしているけど手合いはごめんだ。




 家に帰ると、社殿の駐車場で暁斗が父の使用しているホンダのスーパカブ110バイクを押していた。

「何やってんの?」
「あ、おかえり。お酒の配達に行ってたんだ」

「暁斗が?」
「そだよ。……あんまりじっとしているとナマるし、そんなに遠くないから」
「ま、大丈夫ならいいけど、そのカブ、エンジン調子悪くなかった?」

「そんなことないよ。かけてみようか」
「うん」

 配達用のバイクは数年前に買ったばかりなのに調子が悪くて。オイル交換したり、バッテリー変えたりしたけど、どうもだめ。そろそろ、新しいのを買おうか、と父と相談していたくらいなのだ。

 暁斗がメインスイッチを押した。カツっと発火音がしたあと、タイヤが回りはじめ軽快なエンジンを音がし始めた。

「あれ〜 おかしいなぁ、俺がやったときは機嫌悪かったのにぃ」
 エンジンをのぞきこもうと身をかがめたときだった。

「高原!」

 神社の入り口、鳥居の真ん中に、新庄が真っ赤な顔して立っていた。ゼーハー肩で息をしている。

「おーまーえー よくも俺を置いて逃げたなっ!」
「うわっ、新庄」
「許さん!」

 ずんずんと迫りくる迫力に押されて、俺は暁斗の後ろに隠れた。

「えっえっ?」
「なんで逃げたんだ、え! どっか具合が悪いのか? それとも俺とやるのが嫌になったのか」

「ちがう、ちがう」
 暁斗を盾にして、あっちこっちに移動する。

「じゃ、なんで……あ」
 急に気付いたように、新庄は暁斗の顔をまじまじと見た。

「あれ? 君、どっかで見た? 誰だっけ?」
 じぃっと暁斗の顔をみて新庄は、目を細めた。思い出そうと懸命に記憶をくっている。

「あ、美剣士! 美剣士だよ! そうだろ? なんでこんなトコにいんの?」
「あ、あの」

「俺さ、高校全国大会の準決勝で戦った新庄楓。覚えてる?」
「ああ……はい」
「君ほんと強かったよ。俺すっげー悔しくてさ、あの日眠れなかったよ」

 新庄が暁斗に気を取られている隙に、俺はスーパーカブにそろりと近づいた。おもむろにバイクにまたがると、暁斗をぐいっと引き寄せた。

「あっ!」
「のれ、暁斗!」

 半ば発進していたので、手をとられた暁斗は不安定な体勢になった。が、反射的に荷台に飛び乗った。

「あ、待て!」
 新庄が手を伸ばしたけど、間一髪で届かなかった。体勢を整えながら、俺はしっかりとハンドルを握った。

「今日は許してくれ、新庄」
 追いかけてくる新庄を後ろに、更に俺はバイクを加速させた。新庄の姿はすぐに小さくなった。

「い、いいのか?」
 かなり無理な体勢でタンデムさせたのに暁斗は落ちなかった。落ちるはずないって分かっていたけど、ちょっと悪かったと思う。

「いいの」
「でも、あの人、正宗のこと追いかけてきたんだろ? 手合いするんじゃないの」
「しないよ。それより、このままどっか行こうぜ」

「ノーヘルは捕まる」
「……だよなぁ」

 慣れた近所を流しながら考える。

「じゃ、買おう」
「メットを?」
「うん!」
「ふたつも?」
「ふたつも」

 エンジン音に負けないように、半ば叫びながらしゃべる。

 まだ少し寒い春の風を切りながら、ふたりぶんの重さをのせたスーパーカブは走る。腰に回された暁斗の腕と、背中に当る胸の温かさが心地よかった。何よりふんわりとした細かな気がダイレクトに感じられる。

 バイクって……ありかも。

作品名:君に秘法をおしえよう 作家名:尾崎チホ