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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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拝啓マリさま

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拝啓
こちら栃木では、日光の紅葉が見ごろになりました。
既に北の国では冬支度なのでしょうか?
たった1日ではありましたが、ぼくの心は楓が色ずいて行くように、赤く燃えて行くのです。
2度と逢う事は止めようとの約束は、あなたの想い出がいっぱい詰め込まれた風船を、バラの刺で突き刺したいほど苦しく思う時があります。
あなたを忘れてしまえばいいと思うのですが、何度試みてもその勇気がありません。
函館の夜景は忘れられません。そのあなたとぼくの人生のフイルムに残されたネガは多分間違って記録されたものなのでしょう。
あなたの傍にはあなたの夫が、ぼくの脇にはぼくの妻がいるのが自然なのに、神様は悪戯をされたのでしょうか?
ぼくもあなたも子供のように、悪びれず無邪気でしたね。
トラピスト修道院で、1日だけの約束で二人で結婚式の真似ごとをしました。
新婚旅行は洞爺湖でした。悪ふざけのつもりだったのですが、その時の安物の結婚指輪はいまでもあるのです。
ただ秋の日に何となくあなたに手紙を書いてしまいました。
もちろん返事はいりません。
空で繋がっている・・と言ったのはあなたでした。
秋が過ぎればあなたを忘れる事もあるでしょう。次の秋が来るまでは・・・
秋はまだこれからかもしれませんが、この手紙はあなたに届かないでしょう。
まだぼくには封筒に入れる勇気もありませんから・・
作品名:拝啓マリさま 作家名:吉葉ひろし