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天空詠みノ巫女/アガルタの記憶【零~一】

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 その映像は、海上の屈斜路丸にもリアルタイムで送られていた。
 そこでもクルー全員が、喰い入るようにモニターを凝視していた――事の一部始終を、脳裏に焼き付けるが如く……ふと、誰かがおずおずと口を開いた。
「大きいな……」
 すると堰を切ったように、それまで固唾を飲んで静観していた者達が、次々とざわめき立っていく。
「自衛隊のものじゃないよな?米軍か?」
「いや……大きさからいって、露西亜の原潜だろう?」
「新型のテストとか?」
「それより、領海侵犯も甚だしいだろ!」
「確かに、この海域で演習だなんて……」
「兎に角、海上保安部に連絡を!」
「自衛隊の方が良くないか?相手は――」

 バーン!

「……」
 彼らを一瞬で凍りつかせた音の正体は、池上が蹴り倒した大きなテーブルであった。
「まず、潜水艇の回収→次に、この海域からの速やかな離脱→それから、海上保安部への通報――わかった?」
「了解!」
 その場にいたクルー一同が、池上の指示に声を揃えて応答していた。

 一方の『海底組』はといえば……蛇に睨まれた蛙さながら、その場から一歩も動くこともできず、ただ静かにこの悪夢のような時間が過ぎ去るのを、じっと待つことしか術はなかった。
(こりゃあ、とんでもねぇもんと出くわしちまったな……)
 向井はゴクリと息を飲んだ。
 その刹那――一筋の閃光が、彼らに向けて放たれる。
「!!」
 途端、スクリューが停止するや、潜水艇の全動力が失われた。
「……」
 あ……終わったかも……そんな絶望感が優太を襲った三秒後――L.S.S.(生命維持装置)が作動し、予備電源へと切り替わる――潜水艇の動力は復旧したのだった。
 動揺を隠し切れぬまま、向井は呟いた。
「こんなこともあろうかと……だぜ……」
 ハアー……
 彼らの全身を脱力感が一気に駆け抜け、死ぬほど長く感じた緊張の場面から二人はようやく開放された。
 モニター越しの『御一行様』は、既に小さな『点』となって微かに映っている――急に思い立ったよう、雄太は「あっ!」と声をあげた。
「……なに?」
 怪訝な声で向井は応える。
「あ、いや……あの……追っかけなくていいんスか……ね?……」
「バーカ。こんな『紐付き』で、追いつける訳ねぇだろーが?」
 向井は手元にあった海図を丸め、優太の頭をポコっと叩いた。
「あー……やっぱ、そうっスよねー……」
(追いかけていって何をしようってんだ?あんな思いをしたばかりだってのに……全く、いい根性してやがるぜ)
 隣りで申し訳なさそうに萎縮している若者の言動に、向井は驚きと共に少しばかりの頼もしさを感じた。
「なあ、優太。勇ましいのは結構だが、無茶は駄目だ。ここじゃ、それが命に関わるからな……」
「……はい」
 一息つくと向井は、頭に巻いたねじり鉢巻を解き、汗を拭いながら海上と交信を始めた。
「向井だ。こっちはなんとか無事だ。これより浮上――帰還するぞ」
『了解よ。ひとまず無事でなによりだったわ。熱いコーヒー、用意しておくわね』
 辺りは静寂を取り戻し、EX-マリナー5000は今度こそ海上に向かって上昇していく。
 一時は引退を通り越し、沈没すら覚悟させたこの潜水艇であったが、計らずもまだ当分の間は現役でやれることを証明した、今回の事件であった。
「優太……『オムツ』は無事だったか?」
「はい、なんとか」
「マジかよ?偉え奴だなー。……俺は、少しちびっちまったぜ」
 そう言うと向井は、「ガハハハ」と笑った。