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天空詠みノ巫女/アガルタの記憶【零~一】

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               ☆

「カッパねェ……」
「そう……河童」
 香津美が昔話をしている間に、織子は『河童』を見事に吊り上げていた。
 難なく穴に落とすと、景品取り出し口からそれを掴み出し意気揚々と天に向かって掲げた。
「カッパ、ゲ――ッツ! 」
 その河童は、織子のカバンへと繋がれた。
「――で?……その後どーなったのよ?香津美とカッパくんは」
 二人は織子が買ってきたペットボトルを開け、プリントシール機の中へと入っていく。
「それがさ……よく覚えてないんだよね、その後のこと。……テヘペロ」
「いや、香津美じゃ可愛くねーし。……テヘペロ」
「あんただってキモいんですけど~」
「オリコは可愛いもん!男子にだって、超モテモテだもん!」
「あー……男の子だったかな?あの子……」
「はぁ?男の子ー?カッパじゃなくて?……ふーん、それが香津美の初恋でしたーちゃんちゃんって訳だ」
「バ、バッカじゃないの!ないない!違うわよ!」
 そんな他愛のない会話中、プリントシール機のシャッターは切られ続けた。
 案の定、河童のデコレーションをされた挙句、『炎のカッパ記念日』と書かれて無事プリントアウトされるのであった。

 流石にもう帰ろうと、二人はゲーセンを後にした。
 だが、外に出ると……彼女達の前に一人の男子が行く手を遮るように立っている。
 全身を黒で統一した服装で、どこか異国の雰囲気を漂わせている彼は、香津美の前に立ちはだかるとボソッと呟くように声を掛けてきたのだった。
「三神……香津美……だろ?」
「?……」
(なに?誰?……でも、どこかで会ったような……)
 香津美は一瞬、そう思って立ち止まる――だがしかし、直ぐさま無視してその場から立ち去ろうとした。
 その男子は香津美の腕を掴むと、強引に自分の方へと引き寄せる。
「なによ!?」
 腕を振り解こうとしたが、彼の力は尋常ではなかった。
「覚えてないのか?」
「だからなんなの!」
 やっとの思いで振り解き、香津美は彼の傍から離れた……というより、飛び退いた。
(うわー、ヤバイ奴だ。バットは担任に没収されたし……ここは……)
 野次馬に紛れて二人の様子をカメラに収めていた織子の手を取ると、香津美はその場から一目散に駆け出していた。
 彼は二人を追わなかった……。
 彼女たちの姿が、繁華街の人ごみの中に消えて見えなくなるまで、ずっとその場に立っていた。
「まあいいさ……。これからはいつでも会える」
 そう呟くと、彼もまた雑踏の中へとその身を委ねていった。

               ☆

 香津美は走りながら、これまでのことを思い返していた。
(いったい今日は何なのよ!あの女は私の過去の秘密を知っていたし、変な男には絡まれるし……。きっと厄日ってやつ?)
「ちょっと、香津美ー!すとーっぷ!!」
 織子の声がようやく届き、香津美は走るのを止めた。
「あんたの……体力に……ついていける訳ないって……」 
 香津美より遅れること二十メートル後方で、息を切らした織子は電信柱に掴まることでなんとか立っていた。
 織子の声に一度は立ち止まった香津美だったが、先ほどの男子に掴まれた腕に痣を見つけると舌打ちをする――思えば、今日は『負けた感』でいっぱいだった。
 生徒会長からは馬鹿にされた気がする……。
 さっき絡まれた男子からは逃げ出す始末……。
 織子を巻き込みたくはなかった……でも、謂れなき敗北感で涙が込み上げてくる。
「織子、これからは体力の時代だから!」
 そう言い残すと、香津美は再び駆け出していった。
 一人取り残された織子は、もはやその場から動く体力は残ってはいない。
「し……尻子玉……抜かれてしまえー!! 」
 織子の叫びが、いつまでも夜空に木霊していた……。

「一 炎のカッパ記念日」 了 次回…… 「二 それぞれの思惑」につづく