故障
工場
六つの水銀灯で照らされた広い工場。高い天井にはダクトやホイストのレールが走り、壁には防音壁が敷き詰められていた。床の全面がグリーンで塗装され、白と黄色のマーキングは作業員の歩道を示している。
工場内には気に障る機械の作動音で満たされており、足元からは沸き立つような主導力の巨大なモーターの振動とコンプレッサーの唸り、頭上からはチャックを作動させるエア抜けの突風がうるさく鳴り、金属音が数回繰り返された後に新たな別の打撃音が通り過ぎる。
気に障る音は乱雑に防音壁に乱反射し、作業員に浴びせられている。
この工場の中央には1台の巨大な機械が設置されていた。この空間のすべての音は、この機械を作動させる為に生まれてくる音である。
この工場内のどこを見ても清潔にされているのとは反対に、この巨大な機械だけは驚くほどに油にまみれている。それはこの機械が一時も止まることを許されず、昼夜構わずに動き続けることを使命にしているからだ。
この工場の東側の一面には高さ5メートルの大きな搬入口が1つ。だが、その大きな搬入口からでも、この巨大な機械が搬入できないのは簡単に想像することが出来る。つまりはこの巨大な機械は建物よりも先に設置され、その後に工場を建設したということになるだろう。
オイルの匂いが漂うこの部屋の中で、巨大な機械は耳障りな機械音と共にどれ程の長い年月をこの場所に腰を下ろしてきたのだろうか。鉄の皮膚には幾重にも着いた油の染みが威風堂々とした風格と威厳を備え付けていた。
その風格ある巨大な機械の作業工程を眺めれば、ある固形材料を生成し、容器の中にその生成された固形材料を一つづつ注入するだけのシンプルなもののようだ。その風格から想像するものとは程遠い、それは至って単純な工程。その小さな製品を注入している他には、やはり何の仕事もこなしてはいないように見えた。
巨大な機械の制御盤の傍には、赤い帽子をかぶった背の低いオペレーターが1人だけ佇んでいる。