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故障

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 楽屋



 非日常的な衣装達が所狭しと並んでいるのは古びたストリップ劇場の衣裳部屋。その隣には四畳半の楽屋があり、ブランドもののバッグや紙袋が無造作に投げ出され、更には部屋の中央に丸テーブルが置かれている。座る場所は決まっているようで、その定位置以外は足の踏み場もなく雑誌が散乱している様な状態。狭苦しさを感じる。丸テーブルの上にはビールやチューハイの空き缶が並んび、その上を三人の踊り子の雑談が飛び交っていた。
 舞台では身につけた煌びやかな衣装を次々に剥がしてゆく踊り子達は、楽屋にいる時もトップレスにショーツ一枚。そんな姿で他愛もない雑談が交わされている。会話の内容はといえばOLもストリッパーも変わらずで、男か子供かスイーツの話題。いつもの話で賑わいながら、1幕最後の出番の踊り子たちは舞台前の化粧を念入りにしていた。仲間の踊り子達との世間話の中でも、大鏡の前に並ぶ化粧品の数々が、慣れた手際で派手派手しく女の肌に乗ってゆく。
 CDプレイヤーからは舞台で使うセリーヌ・デュオンの音楽が流れ、頭の中では振り付けのイメージを描いているのは、もうすぐ出番の酒好きの27歳。氷の入ったプラスチックカップに焼酎を半分まで注ぐとウーロン茶をつぎ足す。指輪をはめていない中指で掻き混ぜ、ひとくちだけ口に含んだ。旦那はいないが子供はいる。旦那は以前は劇場の切符売りをしていたが、今は何処に居るかも分からないし、もう帰って来なくてもよかった。生き甲斐は5才になる息子。ずっと喧嘩をしていた父親とも仲直りをして、手がまわらいない時には実家が近いので息子を預かって貰っている。正直、息子がいなければ今でも親とは疎遠だったに違いない。思ってもみなかった仲直りの機会を息子が与えてくれた。舞台で踊っていても息子のことが頭をよぎるのは日常茶飯事。客から金をとっている踊り子としてはプロ意識に欠けるのかもしれないが、不謹慎を絵に描いたような職場なのだから仕方がないと、つい心の中で自分にわらう。
 昨晩、息子にねだられたゲームソフトを買って帰ろうかどうかを思案していた。両親が息子を甘かやすぶんは自分が厳しくしなければいけない、最近はそんなふうに考えられる余裕も生まれてきた。
 踊り子のママ友に安い玩具屋を教えて貰っていた。帰りの道からは少し外れる道になるが、近くの玩具屋の値の2割引きで買える店。そんなことを頭の中で巡らせていた。そろそろ出番だ。


作品名:故障 作家名:夢眠羽羽