犬一匹物語 『危機一髪』
僕がこの家に住み出して、随分と歳月が流れました。
そう、それは10年前です。生まれたての僕はダンボールの箱に入れられて、公園に捨てられていたのです。当時、幼なかったエッコとヨックンがクンクンと泣いていた僕を家に連れて帰ってくれました。
ダンナと奥さんはしぶしぶだったのですが、子供たちの願いを聞き入れて、僕を家に招き入れてくれました。そして身体を洗ってくれて、暖かいミルクまで飲ませてくれたのです。あのまま公園でもし捨てられたままだったら、多分お陀仏だったでしょうね。まあ言ってみれば、際どいところで命拾いしました。
自分で言うのも恥ずかしいのですが、10年前の僕は結構可愛いかったのですよ。
エッコとヨックンが朝起きると、まずおはようと挨拶に来てくれてね、ご飯を食べさせてくれたりしたのですよ。それにエッコなんか、学校から帰ってくると、僕の所へ飛んできて、「カッワイイ」といつも頬ずりしてくれました。それをダンナと奥さんが微笑んで見ていました。
僕はそんな時に幼いながら思ったんですよ。こんな幸せな日々が続いて欲しい。そして、この家族をずっと守って行こうと。
作品名:犬一匹物語 『危機一髪』 作家名:鮎風 遊