犬一匹物語 『危機一髪』
長年生きていると、いろんな危ないことが起こります。確かに、そこには原因があって、普段からある程度の予防はしているのですが、やっぱりある日突然危機に直面してしまいます。
僕はこの家に住み出した時に、この家族を守って行こうと誓いました。その願いも叶って、この家族と僕は今まで幸いにも危機一髪で、いろんな危機を乗り越えてきました。しかし、未来は予測できません。
今度、僕自身の身の上に起こるであろう危機、果たして僕は乗り越えられるだろうか。それはわかりません。
僕はダンナも奥さんも、ユックンもエッコも平等に好きでした。しかし、残念ながら、今回ダンナとの男の友情にヒビが入ってしまいました。そして、今回の危機一髪の騒動の中で、僕は奥さんの力を目の当たりにして迷ってしまったのです。
もちろん歳を取ってしまった僕、犬一匹では生きて行けません。
「これからの危機を乗り越えて生きて行くためには?」
う~んと考えました。
「孤高で孤独に生きて行くのか、媚びて木っ端の身分で生きて行くのか、悩むよなあ」
そんなことを、犬は犬なりに考えてみました。
「そろそろ僕も、犬の自由奔放な生活は止めて、本来の犬らしく媚びを売って、奥さんの旗の下、旗幟鮮明(きしょくせんめい)にして、木っ端らしく生きて行く覚悟がいるのかなあ」
そんなことを思い、ちょっと複雑な気分の時に、奥さんから声が掛かってきたのです。
「危機一髪、こちらへ来なさい。御褒美に、大好きな洋物ドッグフード上げるわよ!」
ここが、これからのマイライフの分かれ目か……う~ん?
奥さんの誘いをシカトするか、それとも笑顔ですり寄って行くかで、大違い。
「う~う~」としばらく唸っていたのですが……やっぱりね。結局は「わんわん」と明るく返事をし、目一杯に尻尾を振って。しかもダンナを思い切り蹴飛ばして、奥さんの方へ走り寄って行きました。
これで、あと2、3年は餓死せずに生き延びて行けることになったかなあ?
だけどね……その洋物ドッグフードの商品名は『Dogs Pride』と言うのですよ。
僕はそれをカリカリと囓りながら……なにか?
そう、犬一匹、なにか男のプライドみたいなものを失ってしまったような気がしたのですよね……うーわん!
作品名:犬一匹物語 『危機一髪』 作家名:鮎風 遊