だみあん☆すらっぐ!
『があるず★だんすほーる』
「__ッしゃぁあああァがああッったぁあああァアアアあぁああ!!!!」
田鎖セエリカ(座右の銘「優雅に気高く背後から」)は我が目を疑い世界を呪った。彼女が優雅に振り下ろしたデコイクライム(靴べらに酷似した形状と靴べらを極限まで再現した材質を備える田鎖専用マルチツール)が無残にも弾かれたのだ。嗚呼、せめて仇敵が繰り出した決死の反撃の結果であったならば!哀れ、彼女が標的と見なした小さな小さな少女は動いてすらいなかった!
佃煮(座右の銘「千客万来とかそんな感じで」)は段差の隙間から滑り落ちてくる何かを他人事のように眺めていたんだけど、実際他人事に違いなかった、その時は。靴べら拭き拭き、セエリカが崩れ落ちる一部始終を観察するんだけど、驚くほどに何の感情も湧いてこない素晴らしい見せ物だった。
セエリカの不運は尚も続く。彼女の手より弾き飛ばされたデコイクライムは優雅に宙を舞っていた(投擲にも適したそのフォルムは風すらも魅了する)。そして気高き仕草でカーペットとキスを交わし、優雅さの欠片もない落下物の直撃を受けて断末魔の軋みと共に二つに裂けたのだった。嗚呼、彼女の脳裏を駆け巡るデコイクライムとの逢瀬の日々!あの時もあの時も、そうきっとあの時も!初めての挫折も、二度目の横恋慕も、三度目のオーガニックボディ破壊試験の時も!目眩くメモリーが巡る補完と覚醒の迷路、セエリカの目を濡らす涙は果たして惜別か悔恨か_大丈夫かな、どう思う?駄目かな?駄目かもね、いける?いけるかな」「割り込みは集団風紀12条違反だって何度言えばァアぁアアAAA!!!」「最適化できないよ-、バズってるバズってる」
大きく上下するセエリカの肩は大きめ、で済めば良いんだけど、尖ってるしプロテクターだよね、むしろ_?当然セエリカに相応しく気品と実用性を兼ね備えたそのデバイスは、顕在事象に先立つ不埒な外敵から彼女を守る使命を課された盟約の使徒であった、その雄々しき姿を今こそ見よ!雄々しくて良いなら止めはしないつもり、確かに結構、雄々しさがにじみでてるもんね_。
「あなた、避けたわね?!」
「私は、避けるよね」
「結果、無残に散ったわ、私の相棒だったのよ!」
「愛棒?散ったね、砕けて」
セエリカの眼は恒星の如く_逸らしてるから見えないけど、まぁ分かるよ_爛々と輝き咎人の罪をさらけ出す、あたかも異端審問を行う_明日のご飯がきっとどでかいサプライズ?_いずれにせよ責任は取らねば、貴女が一端でしかないとしても!」「うん、明日でも良いなら」
歪んで尚美しいセエリカの美貌を讃える言葉を探す旅に出よう、巡礼の旅へ、美に殉ずる旅へ!_ね、良いよね?」「構わないわ、貴女の良心に期待なんてしないもの」眉間のしわがドンドン深まって、あれれコレはクレバスなんじゃないの?分かった、じゃあまた明日より前に会う?」「会うでしょうね、いつもどおりなら」不吉!変わらぬ日常という圧倒的不吉!身を襲う寒気を武者の矜持におためごかしてセエリカは立つ!そして歩き出す!明日のその先へ!「じゃ」「ではまた_晩ご飯だもん、たぶん今日もおいしいはず__ね」
佃煮は背を向けてフラフラ歩き、よろめき、転び!尚も立ち上がる!過重積載とは、悲劇か!彼女のデバイスは余りに古く重すぎたのだ、常日頃より、余りに重すぎた!余りにも!遠目には前衛舞踏にも見紛う程の珍妙な足運びで彼女は去った。セエリカは涙を拭い、愛棒の残骸をかき抱いて、もう一度静かに泣いた。
作品名:だみあん☆すらっぐ! 作家名:オオバロニアン