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夢と少女と旅日記 第1話-5

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「まあ、ざっとこんなものですね。……私もここまで上手くいくとは思いませんでしたが、助かったならいいでしょう。で、そこで苦しんでるあんたはどうします? まだ続けますか?」
「ぐ、ぐはっ……。ふ、ふんっ……、なかなかやるじゃない。でも、あんまり調子に乗らない方がいいわよ。私はちょっと油断していただけなんだからッ!
 それにメア様なら、あんたなんか簡単にやっつけられちゃうんだからッ! 覚えてなさいよッ!!」
 と捨て台詞を吐いて、チェルシーはこれまた煙のように消えました。どこに行ったかは知りませんが、当面の危機は去ったと思いました。
「はあ……、破れかぶれでもなんとかなるものですね。ここが夢の世界じゃなければ、どうにもならなかったんでしょうが。それにしても、理想の世界が私の理想によって崩壊するというのも皮肉な話です」
「そうですね……、夢魔は姿を消しましたし、この世界もすぐに消えてなくなってしまうことでしょう」
 ――この世界が消える。そう聞くと、なんだか物悲しいような気もしました。ですが、人間が生きるべき世界はここじゃなく、現実に存在する世界です。こんな世界はなくなってしまった方がいいに決まってるんです。私はトカゲの方を向き、こう言いました。
「あんたの生きるべき世界は現実です。例えつらいことがあったとしても、それは変わりません。確かに人は夢を見るために生きています。でも、夢を見せられるために生きているわけじゃありません。それに、夢を叶えたいなら、現実の世界で頑張って自分を変えるしかないんですよ」
 私の言葉を聞いたトカゲは静かに頷いたような気がしました。そして、“悪夢”は覚めました。
 気付けば、今度はベッドの前にいました。宿屋のオーナーと奥さん、女性従業員もそこにいました。ベッドにはトカゲ、――ではなく、ケビンさんがいました。
「おおっ!? もうケビンを治してくださったのですか!?」とオーナーは私に尋ねました。
「ええ、ケビンさんはじきに目を覚ますと思いますよ。もう大丈夫です」
 私の言葉通り、ケビンさんは軽い呻きを上げてすぐに目を覚まし、ボーっとしたような表情でこちらを見ました。
「ああっ、ケビン! よかったわ、目を覚ましたのね!」と奥さんも喜んでいる様子でしたが、ケビンさんはそれよりも私に伝えたいことがある様子でした。
「あっちの世界じゃ、俺は自分の行動さえ上手くコントロールできなかったけど、意識だけははっきりしていた。もちろん、あんたの言葉もはっきり届いていたよ。そして、あんたの言うことは尤もだと思った。変わらなくちゃいけないな、この世界で」
 同意の言葉をかけようかとも思いましたが、彼にはもはや私の言葉は必要ないでしょう。私はただ、黙って頷きました。これにて、この事件は一件落着です。



 ――余談。この事件を解決したことによる報酬ですが、宿代を無料にしてもらうことと最高の持て成しをしてもらうことで、お互い納得致しました。仔羊のソテーと野菜スープも滅茶苦茶美味しかったですしね。私は大変満足です。