幼き日の思い出の場所
そして、翌朝。約束通り家族三人で出かけるために、彼は操縦席に座り、操縦を始めた。はしゃぐ息子とにこやかに笑う妻と語り合っているうちに、目的の場所に着いた。
「よし、着いたぞ。窓ガラスが曇っていてよく確認できないが、ナビによればこのあたりで間違いないはずだ」
「わーい、もう着いたんだ! ぼく、ちょっと外の様子を見てくるよ!」
「こらこら。パパも一緒に行くから、待ちなさい」と彼は言ったが、もう既に時は遅し。息子は慌てるかのように外に飛び出したあとであった。彼はやれやれと肩をすくめながらシートベルトを外し、外へ出ようとした。しかし、それよりも前に、ついさっき飛び出したばかりであるはずの息子が戻ってきた。
「どうした? 外の様子を見てくるんじゃなかったのか?」
「だって……、なんか様子が変なんだもん。ねえ、パパ。ここって、本当にパパが生きてきた中で一番美しい場所なの?」
「何? 場所は間違えていないはずだが……」
そう首をかしげながら、彼は外へ出た。そして、彼が見たものはゴミの埋立地であった。かつてここには綺麗な海が、自然が、空気があったはずなのだ。それが何もかも失われている様を彼は目に焼き付けることになった。臭いも酷い。数多くのゴミが異様なまでに悪臭を放っていた。
「なんてことだ……」
彼は絶望した。たった数十年で、ここまで変化するものなのかと。そして、彼は息子に謝罪した。
「すまなかった。パパの思い出の場所がまさかこんな風になっているとは思わなかったんだよ。今日はもう帰ろう。代わりに、どこかの娯楽施設に連れて行ってやる」
「ちぇー、美しい場所だって言うから来たのになー」
がっかりする息子をなだめながら、彼は再び操縦席に乗り込んだ。それから彼はハンドルを握り締め、こう呟いた。
「それにしても、あんなにも美しかった場所をこんなにも汚らわしい場所にしてしまうとは、この星の生物はなんて愚かなんだろう。我々の星には美しい自然があると呼べる場所など、最初からどこにも存在しない。だからこそ、この星の美しさを再確認しようとして来たというのに」
そして、彼が操縦する宇宙船は、銀河にある無数の星の一つへと飛び立った。
作品名:幼き日の思い出の場所 作家名:タチバナ