幼き日の思い出の場所
父と母と息子の三人で家族水入らず、夕食を摂る一家がいた。仕事から帰ってきたばかりの父にとっては、家族団欒のときこそが何よりも癒されるときであると感じられた。彼が幸せを噛みしめていると、彼の幼き息子がおねだりをしてきた。
「ねえねえ、パパ! 明日はお仕事、お休みなんでしょ? せっかくだからどこかに連れて行ってよ!」
それは彼にとっても、有意義な提案であった。愛する妻や息子と遊びに行くのであれば、疲れを感じることなどない。むしろ至上の癒しである。無論、彼は即答で了承した。
「しかし、困ったな。近くの娯楽施設はほとんど行ってしまったぞ。新鮮な気持ちで楽しめるような場所は思いつかないが、お前はどこか行きたいところはあるのか?」
「んー、どこでもいいよ。あえて言うなら、パパが好きな場所ならもっといいかな。ぼくはパパにもめいっぱい楽しんでもらいたいからさ」
その言葉に、彼は感動した。息子がとても思いやりのある子に育ったことを実感したからだ。それなればこそ、息子の期待に応えなければならない。自分にとっても幼き息子にとっても、楽しめる場所に連れて行かねばならない。そう考えたとき、彼はある場所を思い出した。
「そうだ。パパが幼き頃、よく遊んだ場所に行くというのはどうだ? パパも昔、父親に、つまりお前のお爺ちゃんによく連れて行ってもらった場所だ。もう久しく行っていないが、記憶の中には今も鮮明に残っている。あのように美しい場所は、パパが今まで生きてきた中でも、他に見たことがないような場所だったんだよ」
「へー、そんな場所があるんだ。絶対行きたい! それじゃ約束だから、必ず明日連れて行ってよね!」
楽しそうな息子の様子に妻もあらあらと笑う中、自分にとっても息子にとっても、明日は最高の思い出の日になるだろうと彼は予感していた。
作品名:幼き日の思い出の場所 作家名:タチバナ