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Aufzeichnung einer Reise02

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~第二章~

ミカゲに両親の記憶は無い。親と呼ぶのは拾ってくれたメイラだけ。それに別に不満は無くて、むしろミカゲにとってはそれが当たり前だった。
だが一度だけ。たったの一度だけメイラが言った言葉が心に残った。
「アンタは、親の後は追うんじゃないよ。」
そして暫らく後にミカゲが初めて村を出たいと言った時のメイラの表情も、きっと忘れることはないだろう。
―血は争えないね……―
言っていないはずの言葉が伝わるような悲しそうな苦笑だった。


「きゃぁぁぁぁぁaa…!」
ルーナの悲鳴でミカゲの思考は一気に現実に引き戻される。
ハイネが村に来てから三日後。ミカゲ達は村を出て次の目的地に向かって歩みを進めた。村を出てから二日歩いてようやく目的の街―大商業都市ダス・グランツが見えてきたところで三人は休憩をとることにした。アークとルーナを残しミカゲは近くの水場で水を汲み、二人の元へ戻っていた…ときに先ほどの悲鳴が響いてきたのだ。
「ルーナ、どうした!?」
ミカゲの目に飛び込んできたのは腰を抜かして座り込んだルーナと彼女を引っ張りながらあきれ顔で弓を放つアークの姿だった。
そして二人の前には全長一メートルほどの蛇が矢で木の幹に固定されていた。蛇は未だくねくねと動いている。
「あ、ミカゲお帰り。」
ミカゲの姿に気付いたアークが振り返る。
「あぁ、ただいま。…ってじゃなくてな。さっきの悲鳴はなんだったんだ?心配しただろ。」
ルーナはいまだ腰を抜かしたまま泣きそうな顔で放心している。アークの小さなため息が響く。
「ごめんね。でも大したことじゃないよ。この蛇がルーナの膝に落ちてきただけだから。」
ルーナがぎゅんっと勢いよく顔を上げた。
「たいしたことあるでしょ!蛇が!落ちてきたんだよ!私のっっ、膝に……!!!」
よほどショックだったのかルーナの目には涙がにじんでいる。
「大したことじゃないじゃ…」
「大したことでしょっ!」
いつも通りの会話にミカゲは息を吐いて苦笑した。
「まぁ無事だったんならそれでいいさ。それより水も持ってきたしそろそろ街に向かおうぜ。」
ミカゲの言葉に三人はそれぞれ歩き出した。

☆      ☆      ☆

帝都ダス・クローチに肩を並べるほどに商業が発達し大陸でも相当に大きな内に入る街。海外との重要な貿易拠点であり、だからこそ自衛の意味も兼ねて、シャドウ退治という名目の元に結成されたギルドも多い大きな街。それが大商業都市ダス・グランツである。

「すごい……!!」
人ごみの中お登りさんよろしく目をキラキラ輝かせるルーナの手を引いてアークは足早に進んでいく。
「あ、見てアーク。あんなに大きな建物があるなんて!」
おそらく貴族の屋敷であろう大邸宅を見てルーナが歓声を上げる。
「そうだね。でも今はふらふらしないでよ。……って聞いてないし。」
今のルーナにはアークの言葉が耳に入らないようだ。アークは街に入って何度目か知れないため息をつく。
「……あぁもう、何処に行ったんだよミカゲは…!!」
―二時間ほど前。
ダス・グランツに入ったミカゲ達はまず宿を探して街の中心へと向かっていた。ミカゲを先頭に歩いていたのだが、ルーナが小物を売っている店に気を取られている隙にミカゲの姿が消えてしまったのだ。
「ミカゲ、見当たらないね。」
首をかしげるルーナにアークは一つ頷いてからまた息を吐きだした。
「…まぁミカゲのことだし心配とかはしなくて良いんだろうけど……。」
「?じゃあ、何を心配してるの?」
「僕たちが。どうすればいいのかだよ。」
前半部分を強調して言うとルーナは少し考え込んだ。
「先に宿取っちゃうのはやっぱり良くないのかな?」
アークは困ったように眉根を寄せる。何せ今二人が持っている金貨は何かあったらとミカゲに渡されたものだ。危機的状況に陥ったりするまでは使いたくない。
「…どうだろうね。まぁ最終的にはそれもありだとは思うけど…もう少し探してみてからかな。」

アークたちが苦労してミカゲを探しまわっているとき、ミカゲはミカゲで思わぬ危機的状況に陥っていた。
「だーかーらぁぁぁぁぁ!!やらねぇっつってんだろ!!俺連れが居るんだって!!」
ダス・グランツの東側にある警備体ギルド本部の一室に、ミカゲの叫び声が響き渡る。ミカゲは街に入ってすぐ、訳のわからない人物につかまってここに連れてこられていた。
「良いじゃん、人助けだと思ってさぁ!!」
「嫌だっての!!」
「良いじゃん!!」
「い、や、だ!!」
「分からずや!!」
ミカゲと不毛な言い争いを続けているのはまだ幼さを残す一人の少女だった。しかし少女とはいえ警備隊ギルドの制服に身を包んでおり、腰に下がる使い込まれたふた振りのダガーと合わせて見るに、どうやら結構な実力の持ち主のようだ。
その、髪も瞳も深紅の少女は意志の強そうな瞳を吊り上げるとビシッとミカゲの眼前に指を立てる。
「いいから一日身代わりになってよ!!」
ミカゲは突き付けられた指を払ってため息をつく。
「あのなぁ……いきなり人攫っといて自分の身代わりに任務に行けって…無理に決まってんだろ!?普通無理だろ!何で俺が悪いみたいになってんだよ!?てか自分で行けよ何で他人にさせようとしてんだよ!?」
少女は立ち上がると腰に手を当ててミカゲを睨みつけた。
「アタシが行きたくないからに決まってんでしょ?」
「だから何でそれが当然みたいになってんだっつってんだろが!!!!!!」
ミカゲの叫びに少女はうるさそうに眼を眇める。ミカゲは過去最大と思えるほど大きく息を吐いてがっくりと項垂れた。ミカゲだって20年以上生きてきて村や帝都で色々な事があった。しかしここまで理不尽な要求を受ける事は滅多になかった。
「……とりあえず、お前は何でその任務に行きたくないんだよ。何か理由があんのか?」
理由がくだらなかったら即逃げよう。全力で、窓を割ってでも逃げよう。ミカゲはそう判断して少女に向き直る。
「………別に。あんたに関係ないわよ。」
「帰るぞてめぇ。」
「最っ低!!」
「もう何とでも言え。」
少女は暫らく不満そうにミカゲを睨んでいたが、やがて諦めたように口を開いた。

「……やっぱり先に宿取ろう。そうしよう。」
アークはため息とともにくるりと踵を返した。
「いいの?まだミカゲ見つかってないのに…。」
「いいの。勝手にはぐれたミカゲが悪い。」
ズバッと言いきってアークは足早に歩いていく。さっき通った時、この通りに宿屋があった。大分大きな宿屋だったのでそこで待てばきっとミカゲも探しあてるだろう。……多分。
「ま、ミカゲなら大丈夫でしょ。」
アークはすたすたと歩きつづける。

「で、俺に協力しろ、と…。」
面倒臭ぇ…ミカゲは呆れ声で呟いた。少女はギラリとミカゲを睨みつける。
「話せって言うから話したのに協力しないつもり!?」
「いやそういうつもりで聞いたんじゃねぇけど……。」
「問答無用!!」
「はぁぁぁぁぁぁ……。」
「何よ、辛気臭い。」
「誰の所為だよ……。」
作品名:Aufzeichnung einer Reise02 作家名:虎猫。