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Aufzeichnung einer Reise01

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人懐っこそうな笑みを浮かべるハイネにミカゲは眉根を寄せた。
今から四年前。当時、大陸の東を治めていた我らがカイセルリッケス帝国は西側を治める王国デラメインとの戦争の真っ最中だった。しかしそんなことは関係ないとばかりに連日賑わっていた帝都ダス・クローチ。
ミカゲがハイネと出会ったのはそんな時期であり、そんな場所だった。
村の狩人連中に頼み込んでミカゲが初めて帝都を訪れた時。物珍しさにふらふらと店を覗き込んでいたミカゲに、一方的に話しかけ、一方的に去っていったのがハイネだった。
「あんた、帝都だけで商売してんじゃないのか?」
ミカゲの言葉にハイネは大仰に息を吐いて見せる。
「帝都には同業者がたくさんいますからねぇ。帝都だけだともう大赤字なんですよ。」
ミカゲは、あんたほど得体の知れない物を売ってる同業者は少ないだろうよ、と心の中だけでつっこんでへぇ、と相槌を打った。同時に今まで黙っていたアークがミカゲとハイネを交互に見て口を開く。
「二人、知り合いなの?」
ミカゲとハイネは同時に頷く。
「あぁ、前帝都に行ったときに何回か、な。」
言った瞬間に村人たちがどよめいた。どうやら
帝都に行ったことがあるというのはこの村ではレアな経験らしい。もっと山奥のミカゲの村では、狩人連中は当然のように帝都まで獲物を売りに行かなくてはいけなかったのでミカゲとしては何とも言えない思いだが。
「そうだミカゲさん。よかったらミカゲさんも見ていかれませんか?」
村人たちのどよめきや視線を華麗に流して仕事に戻るハイネ。流石商人。
「あ、おう。…そういや俺、あんたの売ってるもんまともに見たことねぇな。」
「じゃあいい機会ってやつですね!是非見ていってください。…ほら皆さんも、私はいつまでもここに居れる訳じゃありませんよ?」
の言葉で村人たちは我に返ると商品の品定めに戻っていく。ハイネの扱う商品は生活用品を主として、旅に便利そうな携帯品や小型だがナイフや長剣などの武器すら揃っている。
ミカゲも目的もなく目を移していき、視線が服までいったところでようやく自分の服のありさまを思い出した。
「そういや服、買わないとな。…流石に。」
とはいったものの多種類の服を前にミカゲは首をひねってしまう。もともとそういうものに拘らない性質なのでどれを買えばいいかが分からない。
ミカゲは数秒考え、直ぐに諦めてルーナを呼んだ。
「ルーナ、俺の服選んで。」
ルーナはパタパタと近寄ってきて直ぐに服を選んでくれた。
襟の立った膝までの上着に緩めのズボン、袖の無い中着といういたってシンプルで動きやすそうな服装だ。
「おー、ありがとな。」
「ううん、どういたしまして。」
ほんわりと笑ってルーナはまた何処かへ戻っていく。それを見送ったミカゲはハイネを呼んで服と大振りの短剣を一振り購入した。
「おや。短剣、ですか?」
「ま、ちょっとね。」
ハイネの疑問ににっと笑って答えたミカゲはそのまま何かを探すように歩き始める。目的の人物は直ぐに見つかった。木に寄りかかるようにして穏やかな表情で村人たちを見ている。
「アーク見っけ。」
ミカゲが近付くとアークはミカゲを見て首をかしげた。
「ミカゲ…どうしたの?」
「おまえは行かないのか?皆の喜び方から見ても商人ってしょっちゅう来るわけじゃないんだろ?」
アークは人だかりの方を見てうん、と一つ頷いた。
「僕は特に欲しい物とかないしね。」
ふーんと言いながらミカゲは自分より少し低い位置にある大人びた少年の横顔を見下ろした。親が居ないという事がアークをこんなにも大人びた少年にさせたのだろうか。
「…ま、いいか。」
人にはそれぞれ境界がある。アークの事情はアークが聞いてほしいと思ったときに聞けばいい。でもせめて。
「アーク、ほらプレゼント。」
ミカゲは先ほど購入したばかりの短剣を手渡してアークの頭をぐしゃぐしゃとかき回した。
「え、ちょ、何するんだよ!」
アークは逃げるようにぶんぶんと首を振る。せめて、自分が居る時は無理に大人にならなくてもいいように。
「それ、ちゃんと持ってけよ?」
ミカゲは手を振ってその場を後にする。残されたアークは短剣を持ったまま、ぼさぼさになった頭に手をやって首をひねった。
「…なんだったんだ?」

色々と用事を済ませたミカゲがルーナの家へ戻ろうと歩いていると、ハイネから呼び止められちょいちょいと手招きされた。
不思議に思ってミカゲが近寄るとハイネはミカゲを近くの家の裏手へと引っ張って行った。
「ちょ、いいのか商品放っといて。」
「大丈夫、この村の人たちは盗みを働いたりしませんよ。それより…」
何かをたくらんだ様なハイネの笑みにミカゲは目を瞬く。
「ミカゲさん、子供たち連れて旅するんですね。」
「え。」
誰が言いやがったこの野郎。ミカゲはもちろん心の中で呟く。言ってはいけないという訳ではないが何となくハイネには知られたくなかった。
「まあまあ、そんなに構えないで下さいよ。私は貴方達を応援しようと思ってるんですから。」
満面の笑み。信じて良いのか良くないのかミカゲは暫らく逡巡する。
「ほらどうです?」
ミカゲが迷っている間にハイネはどこからか大量の武器類を取り出した。
「うわぁ四次元ポケット…。」。
「何か言いました?…ほら、役に立ちそうなものばかりでしょう?これは帝都に戻ってから売るつもりだったんですけどね、まぁ今売っても問題はないでしょう。あ、もちろんお代はきっちり頂きますよ。」
ハイネ再び満面の笑み。何というか…流石商人。
「まぁ、確かに使えそうだし良いか…。」
ハイネの勢いに押されるようにしてミカゲは武器類に視線を落とした。確かに並べてあるのは今ミカゲが使っている長剣やアークが使っていた弓などより丈夫で使いやすそうだった。ミカゲは振り返るとアークとルーナを指さして言う。
「じゃあさ、俺とアーク…あっちの奴。とルーナ…はあそこの女の子な。…にそれぞれ何か要りそうな物と、アークに弓と矢、あと俺に長剣選んでくれ。要らないのあったら買う前に外すから。」
そう告げて予算を示してハイネに選んでもらう。ハイネは根っからの商人気質だが悪人ではない。それを分かっているからこそ出来る頼みごとだった。
「じゃあま、こんなとこですかね。」
ハイネの揃えたものからを必要なものだけを受け取る。
「ありがとな。助かったよ。」
笑顔で手を振るハイネに見送られてミカゲは今度こそルーナの家へと戻って行った。
作品名:Aufzeichnung einer Reise01 作家名:虎猫。