エイユウの話 ~夏~
「ねぇな。というか、一応ロディックは持ってんだけど、あんま使わねぇんだよ」
「キサカらしいね」とほめたのか解らない言葉を投げかけてから、キースは自分のガルガをキサカに渡した。初めて持ったガルガは結構重たくて、確かに持ち歩きの電子辞書としては不向きだと感じる。渡されると思っていなかったというのもあって、目を丸くしてキースを見た。キースはさかさまに覗き込んで、気にせず操作を続ける。
「ガルガの文字入力の方法は知ってるよね?」
彼の確認に、キサカは「一応」と濁った返答をする。キースはさすがの手つきでモニターをいじっていくと、画面が白色に変わる。それからなにやらゲームのようなものが始まった。状況のわからないキサカは、動揺したままキースに助けを求める。
「何だ?これ」
珍しい様子のキサカに、キースは思わず笑ってしまった。
「問題集だよ。ガルガは辞書能力や持ち運びの便利さにはかけるけど、問題集の代役としてはかなりの性能を誇るんだ」
キサカは疑心も晴らさずに、ガルガを受け取って問題を解き始める。初めのうちはやはり電子辞書といったレベルだったが、そのうちよく売られている問題集レベルとなった。答えを見れば解るのに、書くとなると全く解らない。
負けず嫌いなキサカがそれに夢中になるのに、そんなに時間はかからなかった。キースはゲームに食らいつく子供そのものである彼を見て、つい微笑ましい気持ちになる。こうなる事を予測して、ガルガを持っていたのだ。実際はロディックも持っていて、普段はそちらを使っている。
キサカがガルガを始めて、はや十五分が経った。彼の隣で本を読んでいたキースに声がかかる。
「ごめんなさい、二人とも」
低頭で現れたアウリーに対し、ラジィは鞄の中を漁りながら現れた。荷物の整理でもしているのかと思いきや、彼女は自分の首元を確かめ始める。
作品名:エイユウの話 ~夏~ 作家名:神田 諷