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エイユウの話 ~夏~

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 おとなしく退室した彼女は、今回黙っていた未来の内容を、本当に言わなくていいのかと悶々と考えていた。うつむいたまま、自分の動く足だけをじっと見つめる。学校の廊下は床まで真っ白なので、意識を足に集中させるのは容易だった。
「アウリー?おーい」
 後ろから呼び止められた彼女は、その声に驚いた。聞きなれた声は、彼女の想い人のものと酷似していたためだ。振り返ってみると、やはりキートワースその人だった。彼は教員室前で待っていてくれたようであり、柱に寄りかかりガルガを手に持つ姿勢がそれを表していた。顔だけが、こちらを向いて彼女をとらえている。彼女はそれに気付かずに通りすぎてしまったらしい。
 失態に固まるアウリーの元に、キースがゆっくりと歩いてきた。まだ雨には負けないと踏ん張り続ける太陽の光を、彼の髪はキラキラと映し出している。廊下と相成って、何とも幻想的で美しい。キースに好意を持っていない一般の術師の中にも、見とれて足を止める者が何人かいた。
「どうだった?成績の話?それとも忘れ物?」
 導師に呼ばれる用事といえば、成績のことか何か問題を起こしたときだ。アウリーが問題を起こすようには思えなかった彼は、勝手に消去法で選んだようである。まさかの二択に、アウリーは息を呑んだ。焦りがばれないように、とっさの嘘をつく。
「あ、えっと、夕飯の材料を買ってきてということだそうです。朝言い忘れたそうで」
 我ながら下手な嘘だと、アウリーは動きを止めた。しかし、キースはきょとんとする。
「へぇ、親子で同じ学校だと、いろいろ便利なんだね」
 感心するキースに、アウリーは嘘をついた罪悪感を覚える。同時に、勘のいいキースを本当に騙せているのか、不安にもなった。彼は嘘だと気付いていても、なぜ嘘をつかなければならなかったのかを即座に判断し、だまされたふりを自然にできる人間だ。彼女は不安から逃げるように話題を変える。
作品名:エイユウの話 ~夏~ 作家名:神田 諷