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エイユウの話 ~夏~

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 アウリーは全くの無意識で、先ほどの言葉を発していた。信じられないという気持ちがそれほど強かったのだ。彼女の解りやすい訝しげな顔ですぐに、心の導師はその感情を察した。
「いや、特にそれをどうこう言うつもりはないんだ。だが、多くの生徒がそれを見始めたんだよ」
 サートン限定授業ももう三分の二を過ぎ、終了テストが近付きつつある。もちろん自主学習なので成績に関係するものはないのだが、余分な単位は法師(ほうし)となったときの特典と言える。つまり、多く持つに越したことは無いと言うことだ。
 そのため、心専用の長視(ちょうし)授業を専攻した優等生たちが、同じ光景を見始めたと言うわけだ。みな、試験用の練習中だったということである。
 心の魔術は、魔力の量を調節することにより、未来予知を可能とした魔術だ。そしてその未来予知には長さがある。魔力をあまり使わずに、一週間から一ヶ月までの中から「自分にとって最も重要なこと」を見るのが「短視(たんし)」、また大量の魔術を使い、期間を二ヶ月から四ヶ月に広げたものを「長視」という。心の術師なら誰でも出来る短視と違い、長視は魔力の大きいものにしか扱えない代物なので、サートン限定授業になっていると言うことだ。
「多くといっても三、四人なのだが、長視授業受講者自体が二十人もいなくてね。割合で言えば結構なものだろう。だが、お前より鮮明に見たものはまだいないのだよ」
 劣等生よりも優等生と呼ばれる人たちのほうが見えないとは、なんと皮肉な話だろう。アウリーは父を信用していないわけではないが、疑わないわけではなかった。とくに、今回の件に関しては疑問を抱くところが多い。
 参考がてら、アウリーは父の風晶(ふうしょう)を一瞥する。
「お父・・・導師様はどうだったのですか?」
 職員室にいる状態で、心の導師のことをお父様と呼ぶのには少し抵抗があったので、すぐに直して言葉を続ける。心の導師は生徒や準導師とは違う、円柱型の風晶を手で持っていじりながら悩ましい表情を作った。
作品名:エイユウの話 ~夏~ 作家名:神田 諷