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　ピタリと急に、彼女の口から言葉が止まる。三人は思わずじっと彼女に目を向けた。胸の辺りで組んでいた手を落として、ぎゅっと強くこぶしを作る。天を見たまま、彼女は鼻をすすった。
「そんな、可哀想な目で見ないでよ」
　肩が小刻みに震えていた。泣いている。アウリーがゆっくりと近づくと、彼女は泣きついた。キサカは気まずそうに視線をそらす。キースは何も出来ずに、泣きつくラジィの姿をただただ見ているしかなかった。弱弱しい彼女は、あまりにも痛々しい。
　それからラジィはしばらく泣き続けていた。透き通る空色には白く大きな入道雲が現れて、雨が降ることを予告している。そこからちぎれるように小さな雲が配置されていて、たまに彼らを日陰に隠した。感情が落ち着いた頃、彼女は目をこすりながら告白する。
「実はね、保険医の先生と流の導師様の恋愛事情の噂は知ってたの。でもね」
　こすったせいで赤く腫れた目で、それでも彼女は晴れやかに笑った。
「確証がないことは信じない主義なの」
　キースの読みは当たっていた。解っていたのに、赤い目で強がって笑う彼女にかける言葉が見つからず、彼は逃げるように視線を逸らす。キサカは罪悪感から、二人を視界に入れないように隣に座っている。そしてそのまま、ため息をついてラジィを一喝した。
「信念をいきなり打ち折るなよ。驚くだろうが」
「あら、心配してくれたわけ？」
　にやりといつもの調子で笑うラジィに、キサカはきちんとラジィを見た。顔は笑っていないが、ふざけているのが伝わる。
「それを見て慌てた二人を哀れに思ってんだよ。あくまでもお前じゃねぇ」
「素直じゃないのね」
「すっげー素直だろ、俺は」
　キサカの軽口に、ラジィは思わず晴れやかに笑い出した。口では「失礼だ」と怒っておきながら、彼が怒っていないのも一目でわかる。空気ががらりと変わったのを、肌で感じ取ることができた。
　こういうとき、キサカの口達者は利く。その言葉の選択も、場に合わせた言い方も、様々な気配りが相手を助け出すのだ。さっきまで落ち込んでいたラジィが、目の前で楽しそうに笑っているのだから、その力は確かなものである。
　そんなキサカの能力を、キースは尊敬し、羨望した。そして、自分の無能さと惨めさを痛感する。守るどころか、彼女を信じることも出来ず、傷つけてまでしまったのだから。彼女の事を一番わかっていないのは自分だったのかもしれないと思うと、心の傷はより一層深くなった。