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瑠璃 深月
瑠璃 深月
novelistID. 41971
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天使

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夜想曲
「僕」「銀の天使」


僕   僕が
    地上に降りるって決めたら
    
    金色の天使は

    消えた

    そして  
    銀色の天使が大きくなって
    僕を包み込んでいった

    銀色の天使はそのまま
    透明な体から草原を透かしていた

    僕は
    太陽が赤方偏移をするように
    だんだん暗くなっていくのを感じた
    そのうちに
    草原はずっとずっと下に落ちて
    僕を乗せたまま 
    成層圏から離れていった
   
    天使を透かして
    夜空が見えた 
    夜行雲が空に輝いて
    その隙間にたくさんの星が見えた

    すると
    しずかに
    僕を包み込んだ天使は
    銀色の光に変わって
    月になった
    
    月になった天使は
    僕に
    最後にこう言った

銀の天使「サタンの誘惑は美しい星空を覆い隠し
     月を翳らすもの
     少年よ  
     もう会うことはないでしょうけれど
     その豊かな心を大切にしてください」

    僕は
    そのとき

    あの金色の天使が
    サタンだって気がついた

    サタンは悪魔になる前は
    いちばん素敵な天使だったんだ

    どうして
    天使でなくなっちゃったのか 
    それは分からないけれど

    僕は
    最後に

    銀色の天使の名前を聞いたけれど
    それを聞くことはできなかった

    だって
    銀色の天使は
    天使でいられる少しの間
    その時間を僕に使ってくれたのだから

    明けの明星
    宵の明星

    天使はそういう名前だって
    誰かが言った

    誰かは分からないけれど
    僕の心の中にそう
    聞こえてきたんだ
    
    天使の衣から解き放たれて
  
    僕は
    地上に降り立った

    すると
   
    強い激痛が一気に僕に襲い掛かってきた

    痛い
    熱い 
    苦しい
    言葉にできないほど
    僕は混乱した

    それは一瞬で
    でもとても辛くて

    僕を守ってくれた天使の衣は
    もうここにはない

    真っ暗闇で
    息が苦しくて
    よどんだ空気の狭い空間

    僕は
    僕の家の
    
    崩れた瓦礫の中にいた

    そして
    僕の体は
     
    ズタズタだった

    もう、だめな体
   
    でも
    その体を
    
    あったかい体が包み込んで
    抱きしめてくれていた

    僕はそのとき、一気に僕のことが分かった

    痛みと絶望の交じり合った空間の中で
    僕は僕を知った

    そして
   
    僕を抱きしめてくれているその体が
    僕よりずっと大きくて
    そして
    暖かい思い出がいっぱい詰まった

    お母さんの体だってことも

    ねえ
   
    こっそり言うよ
    誰にも言わないでね
    これは重大な秘密なんだ
   
    だから
    耳を澄ましてようく聞いてね
    一度だけ言うよ

    僕はね
    
    女の子だったんだ

作品名:天使 作家名:瑠璃 深月