嫁入り前夜
「あたし、もうすぐお嫁に行くのね」
彼女はしょんぼりと項垂れてつぶやいた。
「え、嫌なの?ダメだよ、もう約束しちゃったんだから」
わたしは慌てて、彼女に手を添えた。
ここで怖気づかれては困る。
もし明日彼女を渡さなかったら、わたしがコウヘイに嫌味を言われてしまう。
「りかちゃんって、ばかね。マリッジ・ブルーよ」
幼い声でこまっしゃくれたことを言う。
毛先をくねくねと弄りながら、彼女はため息をついた。
「ほんとうにあたしで良いのかしら。
だって、一度も会ったことないのよ」
「でも写真は送ったよ」
「写真なんていくらでも誤魔化せるわ。
実際にあたしを見て、もし『いらない』って言われちゃったら、どうしよう」
そう言って彼女はめそめそと泣く。
わたしまで不安になってくるほどのか細い泣き声だ。
「大丈夫、大丈夫よ。
あんたはおしゃれだし、柔らかいし、あったかいし・・・」
慰めてやろうと言葉を探してはみたけれど、うまく出てこない。
なんだかとんちんかんなことを言っている気がして、それ以上続かずに、黙ってしまった。
けれど彼女は、いくぶんか機嫌を直してくれたみたいだ。
「ありがとう。
りかちゃんも、すっごく優しいし、かわいいし、あたたかいわ」
鈴のようなその声で言われると照れてしまう。
ほんとうに声の良い子だなあ、コウヘイに聞かせてあげたいけれど、と心の中でひとりごちた。
たぶん、彼女はコウヘイの前だと一切話せなくなってしまうだろう。
シャイというかなんというか――まるで、わたし以外の人間とは全然話せないみたいなのだ。
「これからは、毎日りかちゃんとお話したりできなくなるのね」
「会いに行くよ、遊びに行く。それに、あんたも遊びにこればいいじゃない」
「でも、コウヘイと三人よ、きっと。ひとりでは行かせてくれないわ」
「うーん・・・」
確かに。
なにか理由をつけでもしないと、二人でというのは難しいかもしれない。
コウヘイは自分のものを他人に貸したがらない。
それは友達や、恋人であっても同じだ。
以前、コウヘイの友達と仲良くなり、ふたりで飲みに行くことになった。
一応伝えておくかと思って話してみれば、案の定猛反対にあい、結局その飲み会は実現しなかったのである。
並々ならぬ独占欲、あとわがまま、そして自分勝手。
コウヘイはそんなやつである。
彼女はしょんぼりと項垂れてつぶやいた。
「え、嫌なの?ダメだよ、もう約束しちゃったんだから」
わたしは慌てて、彼女に手を添えた。
ここで怖気づかれては困る。
もし明日彼女を渡さなかったら、わたしがコウヘイに嫌味を言われてしまう。
「りかちゃんって、ばかね。マリッジ・ブルーよ」
幼い声でこまっしゃくれたことを言う。
毛先をくねくねと弄りながら、彼女はため息をついた。
「ほんとうにあたしで良いのかしら。
だって、一度も会ったことないのよ」
「でも写真は送ったよ」
「写真なんていくらでも誤魔化せるわ。
実際にあたしを見て、もし『いらない』って言われちゃったら、どうしよう」
そう言って彼女はめそめそと泣く。
わたしまで不安になってくるほどのか細い泣き声だ。
「大丈夫、大丈夫よ。
あんたはおしゃれだし、柔らかいし、あったかいし・・・」
慰めてやろうと言葉を探してはみたけれど、うまく出てこない。
なんだかとんちんかんなことを言っている気がして、それ以上続かずに、黙ってしまった。
けれど彼女は、いくぶんか機嫌を直してくれたみたいだ。
「ありがとう。
りかちゃんも、すっごく優しいし、かわいいし、あたたかいわ」
鈴のようなその声で言われると照れてしまう。
ほんとうに声の良い子だなあ、コウヘイに聞かせてあげたいけれど、と心の中でひとりごちた。
たぶん、彼女はコウヘイの前だと一切話せなくなってしまうだろう。
シャイというかなんというか――まるで、わたし以外の人間とは全然話せないみたいなのだ。
「これからは、毎日りかちゃんとお話したりできなくなるのね」
「会いに行くよ、遊びに行く。それに、あんたも遊びにこればいいじゃない」
「でも、コウヘイと三人よ、きっと。ひとりでは行かせてくれないわ」
「うーん・・・」
確かに。
なにか理由をつけでもしないと、二人でというのは難しいかもしれない。
コウヘイは自分のものを他人に貸したがらない。
それは友達や、恋人であっても同じだ。
以前、コウヘイの友達と仲良くなり、ふたりで飲みに行くことになった。
一応伝えておくかと思って話してみれば、案の定猛反対にあい、結局その飲み会は実現しなかったのである。
並々ならぬ独占欲、あとわがまま、そして自分勝手。
コウヘイはそんなやつである。