「夢の中へ」 第十二話
「光秀様がご存命だったとは・・・驚きだ。ましてそのように気を遣って戴ける事はなおのことだ。まどかはどう考えるんじゃ?」
「はい、藤子は嫁いでおりますが、生まれてくる子供が男子の場合はここよりこれから発展する三河の方が将来には良いと思われます」
「男子が生まれるのか?」
「もしもと言うことです」
「そうか・・・しかし今度は男だと予感がするぞ。窯元に世話になるよりは商人でも職人でもまして武家奉公さえ可能かもしれんな、向こうへ行けば」
「はい、そのように同じく考えました」
「まどかの気持ちは決まっているのであろう?」
「藤次郎様の気持ちに同じです。まどかにはどのように仰せでも不満はありませんのでご遠慮なされずにお答えくださいませ」
「生まれ故郷の近くに居れば、ひょっとして何かの拍子に住んでた時に戻れるやもしれんな・・・偶然は重なるというからな」
「まどかは戻りはしません。あなた様と子供たちをのこしてどうして未来で生きてゆけましょうか・・・」
「未来・・・か。俺達の未来はどうなるのであろうか?俺が死んだらどうする?お前はまだまだ若いように感じる。この時代の女とは違う気がしているんだ」
「光秀様にもそう聞かされました。私の生まれた時代では女性は90歳近くまで長生きします」
「なんと!九十とな!奇跡じゃそのように長生きするとは」
「そんな大げさな言い方なさって・・・」
「であらば、俺が死んでもまだ四十年は生きるって言うことになるぞ!一人では居れまい」
「何をご心配なさるのですか?」
まどかは夫の顔をじっと見つめた。
作品名:「夢の中へ」 第十二話 作家名:てっしゅう