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コックリさんの歌

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 ハナちゃんこと三竹花子は、机の上に放り出されたその紙を見て、嫌そうに顔を顰めた。
「一応聞きますけど、これはなんですか?」
「ウィジャ盤だよ」
『要はコックリさんだな』
 心霊研究家であり、そしてそれを扱う詐欺師、才川貴幸自宅。つまり僕の家だ。そのリビングの机の上には今、アマガエルのアマミさんが入った小鉢と、鉄製の板が置かれている。アマミさんのことはさておき、鉄板の話をしよう。その鉄の板には文字と数字が彫ってあり、穴の開いたもう一枚の鉄板が載っている。
 ――ウィジャ盤。テーブルターニング――日本で言うコックリさんの紙と十円玉に当たる道具だ。
「あ、うん。もういいです」
 そう言って、ハナちゃんは見ざる聞かざるのポーズ。そのポーズを取ったのは、ハナちゃんが怖がりだからではない。この鉄の板は厄介事の種であるからだ。
『コックリさんと言えば、良い話は聞かぬからな』
 アマミさんは言う。
『コックリ、漢字で当てると狐、狗、狸……孤狗理と書く。それぞれ化ける動物であるし、霊的な要素を持つ妖獣、霊獣、神獣の類だな。そんなモノを遊び半分で呼び寄せようとするのだから、良いことがあるわけがないよ』
 アマミさんは化け蛙だ。要は妖怪、心霊現象を取り扱う僕らのような詐欺師にとっては末長く仲良くしたい友であり、なるべくは近寄りたくない畏怖の対象でもある。
 まあ、傍目小学生にしか見えない中学生に人差指で撫でられる妖怪とはこれ如何に、といった具合でもある。
「それに、僕らから言わせれば性質の悪い交霊術の類だからねぇ、コックリさんは……」
 そう言って、僕は紙とペンを取り出す。そして紙に『交霊術』と記した。
『ん? 降霊術ではないのか?』
 そう言って、アマミさんは自分が入っていた小鉢から跳び出し、すぐ横に置いてある電子辞書の上を器用に跳び回り、漢字を打ち出す。アマミさん、妖怪のくせに電子機器に精通しているから妙な違和感がある。パソコンを器用に扱う老父の様相に近いだろうか。
「その二つの違いってなんなのですか?」
「一般に両者は同義だけど、交霊術ってのはね、僕らの商売道具なのさ」
 僕ら詐欺師の間では、この両者を明確に区別している。
「降霊ってのは僕らにとっては本職のすることさ。高みから霊を降ろす、降霊。要は、神様に近いモノを扱う神事なものさ。本来のコックリさんはこっちだろうね。
 でも、一般に伝承されるコックリさんは交霊。その辺にいる霊と交わる、つまり交霊さ。僕ら詐欺師にはそんな風に使い分けるのさ」
 いわゆる線引きだ。この類のモノというのは、踏み込めばその分だけ泥濘にハマる。帰れなくなる。それでもこれが僕らの商売なので、扱わざるを得ない。だから、この商売を続ける為にいくつかの線引きをするのだ。
 一つ、気取られない。
 一つ、稼ぎ過ぎない。
 一つ、踏み込まない。
 気取られればバレるのは勿論、稼ぎ過ぎると目立ち、それだけリスクも大きくなる。そして、踏み込み過ぎると帰れなくなる。これらをどれだけ死守できるかが、一流の詐欺師としての技量を測る指針となるのだ。四流はすぐさまバレ、三流は稼ぎ過ぎて目をつけられる。二流になると底なしの闇の中に消え去ってしまう。心霊現象を扱う詐欺師にとって、それらは守るべき指針なのだ。
 要は、弁えろという話だ。人間なのだから、無理してはいけないのだ。
 ――さて、話を戻すとしよう。
「テーブルターニング、コックリさんは、科学的にはオートマティスムという物理的な現象とされている。質問に答えるというのは、まあ心理的要因だろうとされているね。狐が憑くとされるのも、それが原因だろう。要は思い込みと身体反射による現象ってことさ」
『だが、無論本物を呼び寄せることもある。その類は人の心理によって召喚されるものだからな』
 どこかで読んだことがあるな。車に轢かれた猫の話だっただろうか。
「ところで、なんでそんなものがここに置いてあるのですか?」
 ここからが本題だ。ここまではただの予備知識。触りの部分だ。
「はてさて、どこから話したものか……」

作品名:コックリさんの歌 作家名:最中の中