しぼりだした素直
それからは、ちょくちょくと二人でお茶をする機会が増えた。彼女の部屋か喫茶店でのお茶会。
砂糖を二杯、コーヒーに落としたところで彼女が口を開いた。
「もうすぐ卒業だし、良いんじゃないの?」
確かにそうだけど、それならちゃんと祝いの席を準備したい。急に飲み会なんて、皆も困るだろうに。
「……なら三人で、飲もう」
今は、それで十分だと思う。
「そうね、それでいいんじゃないかな」
「四年間なんてあっという間だ」
そう言い残して卒業した先輩とは、ついぞ以前のようにはなれなかった。仕方ないと言い聞かせて、それでもやりきれないのは、未だに香りの強いお茶も、ビールも苦手だからかもしれない。
まったくだ。本当にあっという間だったと思う。いろいろあったけど、思い返してみれば、センチメンタルに浸れるくらいには楽しかったのだ。
自分が送られた側になって実感できる。
「考え事?」
まあ、とあいまいに返す僕はカップを無意味に揺らしてみた。
卒業式を目前に、彼女の部屋での茶会。
いつもと変わらないそのお茶は、ふんわりと香りをたてている。
「もう、これで最後かな」
何が、とは聞かない。
彼女はカップを見つめている。お茶は半分も入っていないだろう。僕のカップは、相変わらずだ。
「いい忘れたことがあるんだ」
「何?」
ポットにはまだジャスミンティーが茶花とともに残っていた。
彼女は僕を見ている。いつもの穏やかな笑顔で。僕はカップを口に運ぶ。そして中身を一気に飲み干して、
「ジャスミンティーは、好きじゃないんだ」
告げた。
「うん、知ってる」
こうして、僕と彼女の最後の茶会は幕を閉じた。