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リンダリンダ

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夢の中でもリンダを探していて、やっと見つけたリンダは人間の顔をしていて、一瞬恨めしそうな表情をしてすぐに顔をそむけてしまった。リンダ!と呼ぶオレの声に反応はしたが、そのまま立ち去ってしまう。なぜ追いかけないんだろうという所で目が覚めた。オレはあの恨めしそうな顔を思い出そうとするが、それは曖昧で形にならない。衣服を着ていたような気もしたが、それも同じように曖昧で、次第に記憶していたという自信がなくなっていった。

朝早く目覚めてしまったオレは、次第に覚醒していくうちに窓から入る光がオレンジ色であることに気づき、外を見ると朝焼けだった。その色は人生の始まりの歓喜の色ではなく、人生の晩年の色に思えてしまった。ふーっと溜息をつきながらリンダのことを思って、もう一度庭を探してみようと外に出た。

夜と違って隅々まで見える。じっくりと探すが、やはりリンダはいなかった。リンダがベランダから落ちたとしてのルートを確認するために自分の部屋のベランダを見上げた。植物とすると大きなダメージを受けるだろうと思えた。その時、視界の隅に何か不自然なものが見えた。オレはそれに視線を向けた。
(リンダ?)
網戸にリンダのようなものがへばりついていた。オレは急いでベランダまで戻った。

確かにそれはリンダの筈だった。
(そんな! いや、そもそも植物の概念を超えた存在だった)
葉でしっかりと網戸にへばりついたリンダの背中が割れて、中から縮れた羽根と細い胴体が見えた。あ、蝉の羽化に似ていると思った。小さい頃偶然発見したそれを、幼虫から色の薄い蝉になるまでの過程を長い時間見ていたことを思い出した。

もう少しで身体が抜け出そうだ。オレは言葉もなく神々しい畏怖感も覚えながら見続けた。ほぼ抜け出したリンダの身体が震え、羽根が伸びている。あっ、妖精だ。妹の見ていた本に載っていた妖精そっくりだと思った。

「リンダ」
やっと声が出た。
リンダがゆっくりと飛び上がった。オレは空中で静止したリンダを見ているうちに別れを感じた。初めてリンダの顔を、そして目を見た。深い碧い色の目を。
オレは掌をさしだした。リンダがその上に着陸し、そしてきゅきゅきゅうと鳴いた、いや喋ったのだろうか。別れの言葉であろうそれにオレは言葉が出なかった。ただ頷いた。

リンダがすうっと飛び上がり、中空で静止し、お辞儀して立ち去っていった。羽根は単なる飾りであろう飛び方だった。オレはもう見えなくなったのに、リンダが飛び去って行った方向をしばらく見ていた。


             *             *

リンダが去っても、オレの仕事ぶりが劣ってきたということもなく、従って菜美がオレに愛想をつかうという事態にもならなかった。二人の中は順調で、二人で住むためのマンションを探している。

♪愛じゃなくても恋じゃなくても君を離しはしない
 決して負けない強い力を僕は一つだけ持つ

「リンダ」と、口に出た。オレは懐かしい思いのもとは何だったのだろうかと、一生懸命思い出そうとしている。甘さと悲しさの混じった感情に身をまかせながら。













































作品名:リンダリンダ 作家名:伊達梁川