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リンダリンダ

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リンダリンダ

月遅れお盆、この時期連休にする会社が多い。40代になってすぐ、予想もしていなかった離婚によって一人になってしまったオレは一人で過ごす連休をもてあましていた。暑い夜、盆踊りの太鼓の音に惹かれるようにやってきた会場で、食べ物や飲み物、オモチャなどの屋台を見てまわっていると、1カ所夏の花の鉢植えを並べたのだろう屋台があった。殺風景な部屋の窓側に緑の多い鉢植えを置けば見た目も涼しくなるかもしれないと思った。でも、今買ってしまうと移動の邪魔になるので帰り際にまた寄ることにして、盆踊りを見ることにする。

屋台で売っている色々な食べ物と生ビールが私の興味、そして結果になった。広い芝生のある会場なので芝生に座ってタコ焼きと串に刺して焼いたソーセージを食べながらビールを飲んだ。盆踊りは続いている。和太鼓の音もビールを飲め飲めとあおっているように聞こえてきていた。(こんなに自由で、一人も悪くないな)などと思えたのは生ビールを2杯も飲んでしまったせいかも知れない。

帰り際にもう一度寄った鉢植えの屋台には、もう1鉢しか残っていなかった。後片付けをしているオヤジがオレに気付いて「すみません、もう売り切れです」と言った。
オレは残っていた1鉢(といってもビニール製の黒い簡易鉢だが)を手に取って、オヤジを見た。
「あれっ、そんなもの仕入れた記憶が無いなあ。いくらにしようか、えーい面倒だ、持ってっていいよ」
「あ、いいんですか、ありがとうございます」
無料で貰って、さすがにビニール袋に入れてとは言えないので胸に抱えて帰った。大根のような丸みを帯びた本体の一部が土から出ていて、チューリップの葉に似た数枚の葉っぱ、太めの茎の先に黄色い小さなヒマワリに似た花が咲いている。図鑑でも実物でも見たことの無い不思議な花だった。胸に抱えているせいか、それを見ているうちに子供を抱いているような感じに襲われ、いつのまにか子守歌を口ずさんでいた。

アパートに帰り、鉢植えをベランダに通じる戸の前に置いた。オレは花が閉じているのに気がついた。「ははは、子守歌で寝ちゃったのかい」と独り言をいいながら台所に向かった。鉢植えに水を遣ろうと思ったのだが、明日少し大きめの鉢と取り替えてやろうという考えが浮かび、孤独な夜が続いていたのがウソのように満ち足りた夜に思えた。

作品名:リンダリンダ 作家名:伊達梁川