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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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注射器

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「採血をします」
看護師に言われ、シャツをまくる。慣れた手つきで看護師は、ゴムバンドを腕に巻く。
宏は注射が大嫌いだ。60歳になろうと言うのに、何十回何百回と経験しているはずなのに、顔を横に逸らしてしまう。
「少しちくんとします」
その痛さには耐えられるのだが、恐怖を感じる。
それは子供のころからそのまま心に残った感情のように思う。
父のゲンコツよりも痛くないのに、怖さを感じる。
細い針先が恐怖心をあおるのだろう。
包丁は時には人を殺すことさえできるのに、通常は恐怖を感じない。
所が注射器は見ただけで、「嫌だ」「痛そう」と感じる。
注射器の役目は人の病気を治したり、予防したりと良いことばかりなのに、
多くの人に嫌われている。

教職員組合では管理職の評価をし、組合新聞に発表する。
ほとんどの校長や教頭はその結果を気にする。
K校長は評価が悪いのに「このようなものは悪い方がいいのだ」と気にしない。
行政職の宏には校長の言っている意味が解らなかったが、校長は校内改革をしたのだ。
正しいと信念を持って、先生方の反対もあったが、父兄の経済的な負担を少なくする改革であった。(土曜授業など)
長たる者は嫌われても正しいと思えば決断しなくてはならないだろう。周りを気にしたり、人気を考えては良い改革はできないだろう。
K校長は学校の週休2日制に反対していた。今ではほとんどの高校で土曜日も授業をしているようだ。(進学校)
その校長の改革で進学率は上がった。
評判が良くなると生徒の質も良くなり、県下ではトップクラスの進学校になった。

話はだいぶそれてしまったが、注射も患者が泣こうが騒ごうが医師や看護師は鬼のようになってもする。なぜなら病気を治すために自分の評判の事は気にしないからである。
痛いからと思い、止めてしまっては、結果オーライではないだろう。


作品名:注射器 作家名:吉葉ひろし