出会いは衝撃的に(後半)
「亜美香さんに借りて描く。なんてね、冗談だよ。俺も持って行くよ」
「朝六時に森本整形外科歯科内科の駐車場に集合よ」
亜美香は笑顔に戻って云った。
ガラス張りのエレベーターの中で二人だけになると、浅野は亜美香を抱き寄せてくちづけをした。一階に着くと慌てて二人は離れた。
「ねえ、わたしのところに来る?」
「手をつないでくれたら」
「ここから近いのよ。手をつないで歩ける時間は……」
「二分十六秒くらいだね。多分」
「そのタイムだと、二千メートルレースだと大差負けだけど」
「それでも賞品がもらえるね。亜美香ちゃんが賞品」
浅野は亜美香と手をつないだ。
「ああ、美絵ちゃんからの伝言を伝えてなかったわね」
「いいよ。聞きたくない」
「そう?もう、済んだことだものね」
亜美香はつないだ手に力を込めた。夜霧が濃くなり始めたのを、浅野は良い傾向だと思った。全ての記憶を、夜霧が包み込んでくれるといいと……。
了
作品名:出会いは衝撃的に(後半) 作家名:マナーモード