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エピローグ

 4年前、君がまだ無名のアイドルで、小さな劇場でライブに出演していた頃だ。

俺は週刊誌カメラマンで、駆け出しのアイドル撮ろうと 劇場の外で待ち構えていた。
他にもカメラマンが何人かいた。

その日、東京ではめずらしく雪が降ってきた。
他のカメラマンはみんな、あきらめて帰っていった。

俺はライブ終わりの写真がどうしても撮りたくてそこに残っていた。

ライブが終わるのを待っている間に、携帯ラジオを聞いた。

その時、日本人ジャーナリストがバクダッドで銃撃戦に巻き込まれて死んだというニュースが流れた。

ジャーナリストの名前は田所だった。

ラジオは繰り返し、日本人ジャーナリストが銃撃戦で死んだと報じた。

俺は、じっとニュースを聞いていた。

自分が惨めで情けなく、心は激昂していた。
ジャーナリストとして死んでいった田所に、嫉妬すら感じていた。

なぜ俺はここに居るのか。
ここに居続ける理由を誰か教えてくれ。

唇を噛みしめながら、地面に落ちる雪を見た。

雪は、落ちた瞬間に無常に溶けては消える。

それを見ていると、不思議と心が沈まった。


ライブが終わった頃、雪が降りしきる中、君は傘をさして、片手にコーヒーを持ちながら、俺のところまで来た。

そして、紙コップに入ったコーヒーを差し出して微笑みながら言った。

「雪の中大変ですね。頑張ってくださいね。」 

俺はうつむいて「どうも」と言った。

たったそれだけだ。

たったそれだけのことで、君は特別な存在になった。
幼い頃捕まえた、白い蝶の様に。

牡丹雪がフワフワとコーヒーの中に落ちて一瞬で溶けた。

見上げると、電灯に照らされて雪が舞っていた。


…まるで真っ白な蝶のように。



作品名: 作家名:minano