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再び桜花笑う季(とき)

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4.違和感



しばらくして、三輪さくらは整形外科の外来の看護師として職場復帰し、リハビリの介助として私の前に現れた。
「松野さん、お久しぶり。」
と私に挨拶した彼女は、私の前で号泣したことなどすっかり忘れてしまったように笑顔だった。しかし、その左手薬指にはただの輪っかの中に一つ小さなダイヤが埋め込んである指輪が光っていた。(そうか、恋人と言っていたからまだ結婚はしてなかったのだろうが、婚約中ではあったのだな。)私はそう思ったが、特にそれを指摘することはなかった。そうだ、私には何も関係のない話だ。

だが、それから2度ほど後のリハビリの時、私はあのかつての同室者と一緒になった。彼は、彼女を見るなりその左手薬指を見咎め、
「三輪ちゃん、しばらく見ないと思って心配してたらリハビリに移動したんだぁ。おっ、それ…結婚したの?長期休暇は新婚旅行か…いいねぇ、若いもんは。おめでとう。」
と的外れな祝福の言葉を述べた。それに対して彼女は、否定もせず笑顔で、
「ありがとうございます。」
と述べたので驚いた。
「旦那さんってどんな人?」
尚も質問を続ける彼に
「え〜っと、建築デザイナーなんですけど…」
と、彼女はまだ返答している。しかも、その顔は照れたような笑顔だ。私が曽我部由美に聞いた話は全くの嘘っぱちだったのか?私は自分を支えることに集中できなくなり、歩行バーでつんのめった。
「松野さん、危ない!」
それを見つけた彼女は、そう叫んで慌てて私の所に駆け寄った。
「あ、大丈夫です。ありがとう。」
そして、ごく至近距離で彼女の顔を見た時、私は彼女のその笑顔の下にはっきりと涙があるのがわかった。
「何故、そんな無理をする。そんなに患者へのリップサービスが必要なのか、ここは。」
私は思わず彼女に小声でそう言ってしまっていた。
「松野さん、何で…」
彼女は私の言葉に固まった。
「曽我部さんに事情は聞いた。退院の時あんな風に号泣されたのが気になってね。もしかしたら、俺のファンなのかと思ってさ。」
「あ…そがっち言っちゃったんですか?もうあいつ、おしゃべりなんだから…でも、助かりました。あの人、長くなりそうだから。」
すると、彼女はそう返した。
「三輪ちゃん、何をこそこそ松野君と話してんのさ、そんなことしてっと旦那さんにしかられっぞ〜。」
だが、そこで、先ほどの元同室者からそんな茶々が入った。
「大丈夫です。彼、そんな心の狭い男じゃないですもん!」
それに、相変わらずおどけた調子で彼女はそう返した。そして彼女はまた声のトーンを落とすと、
「心配してくださってありがとう。でも、私高広とはホントに結婚したつもりでいるから…これで良いんです。」
と私に告げて、私の側を離れた。