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プラムズ・フィールド 〜黒衣の癒師〜 【第一章(後)】

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「そ、そうですね」
 どうやら彼は癒師の事情に詳しそうです。そういえば、彼はどうして私のことを、そして捕まったことを知っていたのでしょうか。聞きたいけれど、答えてくれそうな空気ではありません。
 人のことを詮索する前に、私はまだお礼の言葉を言っていません。それを逆に好機として、せめて名前だけでもと、付け加えてみました。
 男は横顔を見せてつぶやきました。
「オークだ」
 ああ、なんてきれいな顔。男にしておくにはもったいないくらいです。
 私はそれから頭がまわらなくなり、彼について何も聞くことができませんでした。

 空が明るくなり、スズメのおしゃべりが聞こえはじめた頃、ジンセン駅の西口が見えてきました。待ち合わせの定番スポット『オレガノ七世像』の前に誰か立っています。あれは……。
「ピオニー先輩?」
 私に気づいた先輩は、眠そうにしていた目を丸くしました。
「あっ、本当にきた」
 小走りに寄っていってよく見ると、先輩は私のトランクを持っていました。
「ここで何してるんですか?」
「見送り」
「私の……ですか?」
「サツに捕まるようなバカは、シケた田舎でもまわってなさいよ」
 ピオニー先輩は、迷惑そうな顔でチケットを私に手渡しました。
 北国ラーチランド方面、急行の一番列車指定です。これは今すぐ国を出ろという、暗黙のメッセージ。
「そ、そういえば、どうして私がここに来ること……」
 私はハッとしてふり返りました。オークさんはどこにもいません。
「黒衣はトランクに入れといた。その、島の囚人みたいな服はあげる。あたしはこれから彼氏と『つづき』があるから、じゃあね」
 火照った顔の私と革のトランクを残し、先輩は繁華街の方へ去っていきました。
 結局、何も事情がわからないまま、容疑も晴れぬまま、さらには脱走犯として指名手配を受けるであろう私は、この日を最後に東国カスターランドから出ていくことになったのでした。