富裕層会議
第1回会議 富を増やせ
ある国のある場所で、富裕層たちが集まり、会議を開いている。
彼らは、その国のエリート層である。少数であるが、国の富の大半を牛耳っている人々なのである。だからこそ、彼らは何でもできる。自分たちに都合のいいように世の中を操る力を持っている。経済はもちろんのこと、政治、そして、世論を形成するメディアまで手中に入れている。
シャンデリアの下に集まる彼ら。
「なあ、最近、世界の景気は下降気味だ。私たちの富も目減りする傾向にあるように思う。何とか対策を練らないといけないのではないか」とシャンパンを飲みながら富裕層の一人が口火を切った。
「そうよね。ここに至って税金が高すぎるわ。所得税率とかを、どんどん下げるべきよ」
「それに、公営企業を民営化していこう。それから規制緩和だ。商売をするために阻害となる規制を取っ払うように政府に働きかけよう。人件費を削るため、派遣労働をどんどん認めるようにしよう。政治家や役人は私たちの献金やご褒美で成り上がった者共だ。奴らはいいなりになってくれるだろう」
「でも、私たちの払う税金が減った分、国家の予算が減るわよね。それはどうやって埋めることになるのかしら」
「簡単だ。これまで民衆のために使い続けてきた教育や福祉の予算を削ればいい。今まで私たちが払った高い税金が税金をあまり払わない奴らに横流しされてきた。だから、奴らに等分に払わせる消費税、保険、年金料をどんどん上げてしまえばいい」
「だけど、民衆が許さないだろう。そんなことをしたら、公共サービスが低下するし、自分たちの負担が増え、金持ち優遇税制だとか、労働者を使い捨てにしているとか批判するし。分かってないといけないのは、この国は民主主義だ。富は私たちが握っていても、投票となると資産額に限らず一人一票だもんな」
「そのためにも、メディアを使いましょう。私たちが大手株主であり、広告主でもある彼らに、こういう情報を流すの。経済の自由化は、国民国家全体の発展につながるとね。資本主義の原理をわきまえるべしと。自由化によってより安く品質がよく多種多様な商品やサービスを消費者が受けられるようになりますってね。企業が儲かれば、それにより、トリクル・ダウン(したたり落ち)現象で、各労働者も恩恵を受けるようになれるんだって。御用学者なんて使って、そういうキャンペーンを張れば、誰も反対しないわ」
会議でまとまった提言は、政府により実行され、メディアの世論誘導により、世間から何の反対も受けずにまかり通った。さて、それから、十年後、第2回会議へ。