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D.o.A. ep.34~43

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「…ぁ、」
視界の外から、あの、兜に覆われたくぐもった低音が聞こえてきて、頭を握りつぶされかけた記憶が、ライルの体をこわばらせる。
振り返れば、想像したとおりの人物が、巨木に半身をもたれかからせていた。
「ったく何が、一人じゃ梃子摺るだろう、だあの野郎。結局クソの役にも立たねえじゃねぇか、このクズ以下がッ」
いっそ嫌がらせのように緩慢な動作で、白甲冑は足を進めた。
ライルたちとの距離を縮めると、進路上にあったオークの死骸を忌々しげに蹴りのけて歩みを止める。

「…クォードの者か」
「ロウディア。……せいぜい脳味噌に刻みつけておけよ、テメェらを殺す男の名だ」
「デッドとやらの命令でか」
「俺は誰にも従わねえよ。あの女、そいつだけは生かして捕らえたいらしいが、俺はそいつに怨みがあるんでね。だからぶっ潰す。
テメェらは言うなりゃついでだが、エルフも見てると虫唾が走るんで、悪ィけど死んでくれや」

デッドは、かつて自分を死に追いやったアライヴを恐れ、始末するためにライルを狙っているのではなかったのか。
デッドは、アライヴを殺したいわけではないのか?
それとも、みずから手を下すために、生かしたまま捕らえたいのかもしれない。
どちらにせよ、ライルはみんなで逃げる、といったが、恐らくこの聖域の主のエメラルダには届いているだろう。
ならば、かならずこの場に現れるはずだ。
「クォードがロノアに戦いを仕掛けたのも、一少年のためだったと?」
「………。そうとも言えるし、そうでないとも言えるさ。
大体、マジにガキ一匹だけのために、手駒ごっそり減らすようなバカやるわけねえ事くらい、考えればわかるだろ。テメェノータリンと違う?」
「…お前は現に、その“バカ”をやっている。お前たちを常識ではかるのは難しいからな」
うすく皮肉げに笑んでみせると、ロウディアが舌打ちをしたのがわかった。

「さすが兄弟、よく似てやがるぜ。揃いも揃って、俺をムカつかせるのが巧い」
ああ、やはりか。
レンネルバルトはクォードにいる。
そう明かしたのは本人だが、こうしてクォードから訪れた者の言葉を聞いて、彼の中でようやく事実として定着した。
ティルは胸にうずきをおさえつけ、露骨に苛立ちを表わす男を睨む。

「だったら、何でロノアに来た!たくさんの人を犠牲にして、何の目的であんなひどい事を…!」
ライルはたまらなくなって、声を荒げる。
「ロノアに何の怨みがある!?占領して、国旗燃やして、逆らう人は皆殺しにして!
それは俺が降参すればやめられるのか。俺とはまったく関係なくやってるのか!?」

物言いが滑稽であったのか、ロウディアはけたけたとひとしきり嗤う。
「戦争ってのは古今東西そんなものさ。魔物だろうが人間だろうが関係ねえ。弱者は争乱をいざなう。世界の悪を定義するなら、弱い奴らが悪いね。
さあて、お喋りはこれくらいで終いにしようや」
「……!」
腰に下げていた剣を引き出すと、軽く放り投げてから空を斬った。

「今度は逃がさない」

刹那だった。
全身をばねのように駆使し、彼は跳んでいた。
疾風そのものの速度。空気の抵抗などまったく感じさせない、人間離れした目で追いきれぬ瞬速。
まさにライルが反応しようとする直前に、ロウディアは目と鼻の先にいた。
戯れはない。男は迷いない一撃のもとに、少年の首を切断する。
切っ先が、なすすべなく立ち尽くす体に落とされ、

――――寸前で、かたい壁に阻まれた。
「チッ!」
つるぎを伝い、電流のようなものが走って、ロウディアは驚愕と衝撃に引かざるを得なかった。
ライルにも、なにがなんだかわからず、瞬きをするばかりだ。
よく注視すれば、薄い膜らしきものが張られていて、それがライルを守ってくれたようであった。

「防護魔術か…!」
「さようだ。我がテリトリーへようこそ、クォードの追撃者よ」

忌々しげに吐き捨てられた言に対し、果たして聖域の主は姿をあらわした。
後ろにいたリノンは、ライルの姿を見ると、はっと息を呑んで駆けだす。
血まみれの衣類に包まれた身体に、支えるように触れる。
「ダメだ、来ちゃ…」
リノンはお構いなしで離れない。彼女を逃がそうと身をよじるライルをキッと睨み上げた。
何も言われていないものの、ひどく叱責されているような気になり、彼は押し黙ってしまった。

「…ウザってぇマネしやがる。あんたが大十術師サマってワケかい?思ってたよりガキっぽいなァ」
「そんな見てくれでも、低俗な侮辱にいきり立たぬほどには老成しているよ、若造」
常のごとく眼鏡を指の関節で押し上げ、浅黒い頬をゆがめて、エメラルダはさらりと返す。
こういった、すましながら己を軽侮する輩は、ロウディアの最も気に障る人種であった。
その殺意はすぐに、初対面の賢者にも向けられることとなる。
「隠れてりゃ見逃してもらえたかもしれなかったのにな、このヒキコモリ老人。気が変わった、先ずはテメェから死ね」
「――――させない」

そして、賢者に向けられる暴力を、守り人を自負する小さな少年が、咎めぬはずもなかった。
「守る。エメラルダさま、傷付けること、ゆるさない」
「…なんだ、このチビのガキは」
呆れた声で、エメラルダに問う。突如存在を主張しだした、まるで場違いの存在に、少々可笑しさを感じているようであった。
「エメラルダさまの、守護者だ…ッ!」
レーヤは語気を荒げ、左肩の白い鳥を繰り出すべく腕を伸ばして叫ぶ。

「ゆけ、アールヴヘイム!!」


作品名:D.o.A. ep.34~43 作家名:har