D.o.A. ep.34~43
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「おや、ずいぶんご機嫌ナナメ」
見たくないツラを見た、と不快な気分に拍車がかかる。
レンネルバルトは相も変わらず貧弱な体で芝居がかった動きをし、細い瞳孔の金の眼でこちらを観察するように覗きこんでいる。
猫のようだと誰かがいっていた。
猫は好きではない。どちらかというとひねり潰したくなる部類に入る。
よって早々に目の前から消えてほしかった。
「何の用だテメェは。さっさと失せろ、ぶっ殺すぞ」
鬼兜は威嚇するように双眸を眇める。
大抵の者ならば、その眼に睨み据えられたら、心臓を氷の手でつかまれたような心地がするだろう。
だが、この飄々とした道化は、その冷たい眼をいなして堪えていない。やはりへらへらしている。
柔よく剛を制すを地でゆく、曲者なのだ。
時折、敵か味方かわからなくなることがある。
否、鬼兜は真の意味で他者を味方と定めたことなどない。属するものが同じか、否かだ。
さっき抜けた、とか言い出しても、多分まったく驚かないだろう。
「聞かせてよ」
失せろといわれたことなどちっとも気にしていないらしく、
「なにをそんなに焦っているの」
あくまで自分の興味心を満足させたいようだ。
「………」
こういう輩は反応してやるとろくな事がない。苛立ちが増すだけである。無視に限る。
鬼兜は無言で通り過ぎる。我ながらまっとうな判断をしたのだと、おのれの神経を慰撫しながら。
「そうしていると、本当によく似ているものだね」
不意に、くすくすと笑いを含んだ声が背中にかかった。
その言葉に、ささくれだった感情が―――弾けた。
「――――テメェエェ……ッ!!」
抵抗するいとまも与えぬほどの勢いで胸倉をつかみ、石壁にその痩躯を叩きつけた。
レンネルバルトは衝撃に咳きこむが、容赦なく押しつけて気道を圧迫する。
肉はほとんどないようで、骨をつかんでいる感じがする。細い首はもう少し力を加えれば折れそうだ。
「撤回しろ!誰が誰に似ている、だと?!」
苦悶に喘いでいるはずなのに、せせら笑われている錯覚をした。
「…何、を…憤る、ことがある。そのように…生まれたのだから、当然…だろう。
双生児が…似ていると、いうことの…何が、おかしい?君が、抗っているのは、…そういうこと、さ」
締め上げているのに口の減らない男だ。途切れ途切れの言葉でさえ、癇に障る。
レンネルバルトは腕をゆるゆるとあげ、鬼兜の―――兜のない、素顔の頬を手のひらで包む。
「ああ、今の顔は…どちらかと、いえば、…ついこの間の、あの少年に、似ている。……そっくりだ」
「!…なんだと」
聞き捨てならない情報に、鬼兜の腕の力が一瞬緩んだが、彼は無抵抗のまま、わずかに口の端を緩ませた。
「僕を許さないと、殺してやると、憎しみをたぎらせていた。全身でね」
悪魔のような凶相が、黒い欲望と昏い歓喜に、ゆがんだ。
作品名:D.o.A. ep.34~43 作家名:har