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D.o.A. ep.34~43

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Ep.38 その身をすくうもの




ライルたちは、一瞬で、その日々を認識していた。
そして、先程まで信じられなかったことを、厳然たる事実として受け止めたのである。

それは、ライルたちが戦場から遁走し、エメラルダのもとにたどり着くまでに、十日が経っているということだった。
王都モンテクトルへの急襲。武成王ソードと白甲冑の常軌を逸した死闘。大本営の全滅。国王の凄惨な死。トライディザスター。第1軍と5軍の消滅。
クォード帝国。ロノア王国軍の降伏。灰になる国旗。見知らぬ旗。逃げ惑う人々。それらを蹂躙する悪鬼オーク。惨たらしく殺され広場に曝される骸。
エメラルダは、起こったことをすべて見ていたと言う。
そして、これらの光景を、空気を、匂いを、音を、魔術によってライルたちの頭の中に再現させた。
彼らは、瞬きの間に実感させられたのである。
十日という、240時間を、14400分を、864000秒を。

「私の空間は、外とは時の流れる速さが違うのだ」
道理で感覚が狂うはずだった。
こうしている間に、外界では数時間も経っているのだと、エメラルダは彼らを見据えていった。
「…どうして」
ライルは悔しさのあまり、肩をふるわせた。
「なんで、こんなことになったんだ…ッ」
ちらつく残像が、彼の神経をさいなむ。頭痛がする。

「―――残念ながら、その原因の一端をになうのはお前だよ、ライル」
「…え…?」
唐突な、あまりにも唐突なエメラルダの言葉に、ライルは理解が遅れた。

「誰もが、知らず知らずのうちに、お前のために戦い、お前のせいで傷つき、死んだのだ」

「ちょ…ちょっと!イキナリなんですか!一体どういうことなのよ!」
リノンがあわてて抗議する。だが、エメラルダの深い紫の瞳が、お前も知っているのだろうと告げていた。
そんな目を向けられ、彼女はぐっとつまる。
ライルはまだ、言葉の意味を受け止め切れておらず、唇をわななかせていた。
「俺の…」
かすれたつぶやきに、力はない。

「………それは、あの“アライヴ”にかかわることなのか?」
押し黙っていたティルが口を開いた。疑問形をとりつつも、半ば確信しているふうだった。
「そのとおりだよ」
「アライヴ…?」
どこかで聞いた名前だ。ライルは思い出そうと、必死で心の底を引っかく。自分のことなのだ。話についていけないのは嫌だった。
して、彼にしては驚異的な早さで、その名をさぐりあてる。
3ヶ月前にもなろうか。
ヴァリムという隠れ里から、ヴァリメタルの洞窟へむかったことがあった。
奇妙なことに、洞窟の最深部にたどり着いた記憶はなく、全く関係のない場所を見ていた覚えしかない。
しかし、その後ティルから聞いた話によれば、洞窟のある地点から、自分は糸が切れたようにばったりと昏倒したそうだ。
目覚めるまで待っていても仕方がないので、意識のない彼をかついで殺し屋トリキアスと一緒に最深部までたどり着いた。
そこでいろいろあった末に、ライルの肉体が全く別人のものへ変化するという、にわかには信じがたいことが起こったらしい。
“アライヴ”とは、最深部にいた、トリキアスのターゲットである「バスタード」という男が呼んだことで判明した名であるという。
一言で表せば、“アライヴ”は出鱈目だった。
その時の様子の話を聞いているだけでそう思ったので、実際に見たらどのようなものか、はたして見当もつかないが。

―――黒紋様の、風の魔人。
「“アライヴ”こそが、お前をすくいつづけ、お前に多くの災いをもたらす元凶となるだろう」
エメラルダは、細い指で彼をさし、

「―――お前は生きている限り、一生その化け物と運命共同体となり、死ぬまで解放されることはない」

どこか憐れむように告げた。
その宣告に、まるで奈落の底に突き落とされたような、とりかえしのつかない絶望感に襲われたのは、何故だったのだろうか。


作品名:D.o.A. ep.34~43 作家名:har