ミッシング・ムーン・キング
「だけど、ルナ。この出来事は、僕にとって決して忘れることはない夜になったよ」
***
それから、私はアランと時間が過ぎ去るのも忘れて語り合った。
流れ星のことや星座のこと、アランのことも。
そして夜明けが近づき、辺りが明るくなってくると共に、私の身体は薄れ透け始めた。
「ル、ルナ! 身体が」
「別れの時間……。私は月が陰る時に、私は地球に、来ることができる。そして夜の間でしか、地球に居ること、出来ない。夜が明けたら、私は月に戻る……」
「そんな……まるでシンデレラみたいだ……。いやいや、今はそんな事を言って場合じゃない! それじゃ新月の日に、ここに来れば。また君に……ルナに逢えるかな?」
「もし……次の陰りが訪れた時、貴方のことを覚えていたら、逢えるかも知れない」
「本当! 忘れないでくれよ。僕は絶対にルナのことを忘れないし、ずっと想い続ける。そして星に……じゃなくて、月に願い続けているよ。ルナに逢えることを……約束だよ」
アランが言葉をかけたと同時に、私は姿を消した。
そして、私は月の大地に立っていた。
***
遥か彼方に遠ざかった地球を掴むかのように手を伸ばした。
「アラン……」
月に還った私が思い返すことは、アランのことばかりだった。
彼は、私に名前をくれた。
彼は、私の名前を呼んだ。
それが嬉しかった……のだろう。私は私の名前を何度も口にし、その度にアランを思い浮かべた。
だから、私は彼を忘れなかったのだろう。
そして、次の新月の日。
私たちは再会を果たすことになる。
***
隕石が落下した場所――
私に衝突した際に出来た小さなクレーターの所にアランは立って居た。
そして彼は満面の笑顔で私を迎い入れてくれた。
「願いは叶うものだね」
「願い?」
「あの流星群の時に、流れ星に願い事をしていたんだ。これからも君と一緒に居られますように、てね」
地球では、流れ星が消える前に願い事を三回祈ると、その願いが叶うと云われているらしかった。
だけど、私はアランがそんな事を祈っていたなんて知らなかった。
私は私の意志で、やってきたのだと話したが、アランは――
「まぁ、結果オーライってことだよ」
彼は無邪気に、微笑み返した。
それから、新月の日――地球に降り立つ日が訪れる度に、何度もアランと会った。
アランと語り合ったり、星を観測したり、時には海や遊園地などの場所にも出掛け、アクセサリーなどを贈ってもらったりした。
そして、いつしか地球に降り立つ理由は、アランと逢うために変わっていた。
アランと居ることが楽しかった。アランと話すことが嬉しかった。アランと会う度に、私はアランに惹かれていった。
やがて、
“アランと、いつまでも一緒にいたい”
そう思うようにもなっていた。
そして、約三十日間もアランと逢えなくなることが……夜明けと共に離れてしまうことが……とても苦しく胸が張り裂けるようになった。
あの気持ちは何だったのか……今となっては、理解できる。
私は、アランに恋をしたのだ。
月である私が、一人の人間に……。
だけど、アランは言う。
「人間だって星とかに魅了されるよ。だから、こうして天体観測をしたりする。だから、月(ルナ)に心を奪われてしまってもおかしくは無いよ」
彼も、私を愛してくれた。
―――そして、私と地球の運命を変える日が訪れる―――
アランと初めての口づけをした夜の事だった……。
夜明けと共に、私は月に還ることが出来なくなったのだ。
それはアランの望みだったのか、それとも私の望みだったのか……。
だけど、これで私はずっとアランと一緒にいられると思った。
その日から、月は姿を消したのだった。
作品名:ミッシング・ムーン・キング 作家名:和本明子