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ミッシング・ムーン・キング

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◆ エピローグ



 月が再び姿を現して、五十年の月日が流れた。

 現れた月の引力により、地球の地軸が二十三.四度傾き、地球に季節が還ってきた。
そして地球の自転速度は遅くなり、一日が二十四時間に戻った。

 かつての自転周期を取り戻した地球に、植物は育ち草木が茂り、海は全盛期の半分ほどだが地球を潤していた。
 地球の環境は、月が無くなる以前の状態を取り戻しているのだった。

 そして人間も、文明と活気を取り戻し、復興を成し遂げていた。

 人々は月の存在の重要性に気付き、月に感謝を示すために月を崇めるようになった。それは、かつて古代人が太陽を崇め、神格化させた時代まで戻ったようだった。

 月への崇敬は過大になっていき、やがて月の復活を祝して、月に再び人類を送ることを決め、復興させた文明の技術を結集し、宇宙ロケットを完成させた。

 そのロケットは“ミッシング・ムーン・キング二号”と名付けられ、一人の宇宙飛行士を搭乗させて打ち上げられた。

 打ち上げは難無く成功し、過去のアメリカによる月への有人宇宙飛行計画―アポロ計画―のアポロ十七号から約二百年ぶりに、ミッシング・ムーン・キング二号に搭載されていた月着陸船が月へと降り立ち、人類が月の大地を踏みしめた。

 宇宙飛行士が着ている宇宙服は約百二十キロの重量があるが、月の低重力にも助けられ、軽い足取りで月の大地の感触を味わうようにゆっくりと歩き、うれしさのあまりにスキップをしてしまった。

 宇宙飛行士は被っているヘルメットの奥で、積み重ねた年齢に合った顔の皺が増すほどににやけていると、ふと足を止め、前方を見据える。

 そこには、蒼い地球を背に生身の姿をさらした一人の少女が立っていた。

 その少女に向かって、飛行士は言葉を投げかける。

「約束通り……会いに来てやったぞ」

 月に空気が無いために振動が起こらず、飛行士の声は少女に届かない。

 しかし少女は、かつて自分が地球に降り立った時に出迎えてくれた青年と同じように満面の笑顔を浮かべて、宇宙飛行士の名を呼んだ。

                        終