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ミッシング・ムーン・キング

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 そして、黙ったまま話しを聞くライトが、アランと同じような表情をしていたのがルナは妙に懐かしく思えた。

      ***

 ルナの話しを一通り聞き終わったライトは、聞いた話を復唱するかのように振り返る。

「その……ルナは、月の分身? 女神様だった? それが、地球に降り立って、アランという人に恋をしたから月に戻れないようになって、その所為で月は消えてしまった。そして、地球はこうなってしまった。か……」

 何を語るべきか、言う言葉が見つからなかった。

 ルナが月の分身、女神――只の人間では無いことは、今までの出来事で納得いく部分がある。

「なるほど、ある意味。あのミッシング・ムーン・キング(絵本)みたいだな……」

 そう、ルナが語った内容は、まるでおとぎ話を聞くような感覚だった。

 それに、月が消えたのはライト自身が生まれる前のこと。地球を滅ぼした原因の張本人だとしても、ルナを責める感情が湧きはしなかった。

 苦しい日々を生きていくためには、過去を振り返るのではなく、これからどうするべきか行動すること。

 誰の所為にしたとしても、今の環境が変わらないという事を充分知っていた。それが今の地球で生きて、ライトが学んだことだった。

「それで……ルナは、これからどうするんだ?」

 ルナは顔を伏したまま答える。
「このまま、アランを捜し続ける、だけ……」

「その……アランって人は、多分……」

「解かっている……」

 自分に呟きかけるように、とても小さい声だった。

「……だったら、それ以外に何かしたいことは無いのか? 流石に、そればかりしても……」

「アランが見つかること以外……。望むとするのなら……。私は、この命を終わらせたい……」

「それって……」

 その言葉をライトは充分理解を示した。植物もろくに育たない地球で生きていても、この先希望の無い未来が続いている。
 備蓄している保存食が尽きる前に、新しい保存食を探さないといけない。もし見つからなければ、餓死で命が尽きてしまう。そんな綱渡りの生活だ。

「だったら、俺の棺桶に乗るか?」

「棺桶?」

「そう。前にも言っただろう。棺桶を作っている……というより、修理している最中だから……あっ!」

 ライトは何かを思い出したように、自分のポケットの中からある物を取り出す。それは、ルナが持っていた小袋の中に入っていた物体。

「そうだ、そうだ。完璧に忘れていたよ。ルナ、これを貰っていいかな?」

 それは集積回路だった。人間の生活に乏しいルナは、これが何であるかは解かってはいない。ただ、アランが持っていた物に似ていたので拾ったものだった。

「それは……」

「君が持っていた小袋の中に入っていたものだよ。これさえあれば棺桶を飛ばせることが出来る、かも知れないんだ!」


     ***

 ライトが暮らしていた場所は、潜水艦だった。
 ただの潜水艦では無い。

 原子炉を動力にして、限りなく無限に近い航続力を持ち、かつては大海を縦横無尽に潜水していた原子力潜水艦。

 その潜水艦の艦内を、ライトが先頭に立ち、ルナにその事についても説明しながら案内していた。

「ここに残っていたデータベースを調べた所には、アメリカという国が保有していた潜水艦だったらしい。まぁ、その話しはさて置いて。最初、ルナに棺桶の話しをした時に、あの絵本……。ミッシング・ムーン・キングを読んで月とかに興味を持った……その流れで宇宙とかにも興味を持ったんだ」

 ルナは黙って、ライトの話しを聞きながら、後を付いてくる。

「そして、いつかあの宇宙に行ってみたい……と思うようになった。食うにも困る毎日、どうせ生きていても何も無い。なら、死ぬんだったら、自分が憧れた場所で死ねたら本望だと。そこで、宇宙に行く方法を調べたんだ……」

 宇宙に行く為には、宇宙ロケットという乗り物が必要だった。

 飛行機や風船とかで、ただ空を飛ぶだけでは地球の重力という鎖を断ち切ることは出来ず、大気圏を越えることは出来ない。

 その鎖を断ち切るためには、ロケットエンジンの強力な推進力が必要だった。

 ロケットは、かつてはフロリダという場所に有ったらしいが、そこの建物や施設は倒壊していて、何もかも使い物にならなくなっていた。

 ライトはロケット探しをして、あちらこちらを放浪してた時に、この潜水艦を見つけたのだった。
 最初は保存食が有れば良いと思っていたが、この潜水艦には“ある物”が積まれていた。

「それが、これだ」

 ライトが指した先にあった物は、筒状の大きな器械が四本安置されていた。

 それは“核弾道ミサイル”だった。

 かつて世界を核の恐怖で縛りつけ、無駄な戦争を起こさない為の抑止力として存在していたもの。
 これが本来の役目で使われたという記録は無い。そして、これからも。

「ロケットとミサイルの作りは基本的に同じものなんだ。ただ、使用目的とかによって、その名称が変わるらしいんだ。そう、このミサイルをロケットに改造して、宇宙まで飛ばそうとしていたんだ。このロケットが棺桶だ」

 核弾道ミサイルは厳重に保管されていた為に、あまり錆びてたり朽ち果ててはいなかった。

 そこでライトは、独学でロケットのことを研究し、ロケットの改造は粗方目処が着いた。しかし、問題は、そのロケットの発射を制御する基盤が壊れていたのだった。

「だけど、このチップがあれば直せるかも知れない」

 ライトは集積回路を品定めするように見つめ、そしてルナの方に顔を向ける。

「だからお願いだ、ルナ。悪いが、これを俺にくれないか? これが有れば、宇宙に行けるんだ。そして、約束する。必ず、ルナを宇宙に連れて行くよ。そして、そこで一緒に死のう。だから、アランという人を捜すのは、ちょっと一休みして待ってくれ」

 ライトの突然の告白に、ルナは思わず戸惑ってしまった。だが――

『約束』

 ふとアランも似たようなことを言っていたのを思い出す。
 ルナはもう一度、その“約束”を信じる事にし、どうなるとも知れぬ自分の身と集積回路をライトに委ねた。