小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

やまなしこうえんにて

INDEX|3ページ/3ページ|

前のページ
 

会社帰り公園に立ち寄る。

 日が暮れ。

 夕日の赤は山際に遠慮しがちにとどまっていて、空の大半は寒気を催す青で占められている。

 ザッ

 砂場の前で足を止める。足元にマッチ箱のような小箱が落ちている。そこに描かれている文字。

 クラムボン

 もはや俺には当然のことだった。これで3日連続クラムボンだ・・・

 もちろん拾う。そして手にとって間近に眺めた瞬間、俺は爆笑した。

 クラブボン

 clubボン。何のことはない、ボンという名のクラブのマッチだった。

「ばっかばかしい」

 俺はこの3日間、何に悩んでいたのだろうか。その正体は結局俺の誤解や勘違いなのだ。

 俺はマッチ箱を地面に落とした。

 するとその衝撃で、マッチの蓋がスライドして開いた。

 そして

 そこから

 トコトコと2匹のカニが這い出てきた。

「クラムボンは言ったよ」

 カニの一匹がそう言った。

 そう・・・そのカニは「クラムボンは言ったよ」と言ったよ・・・・・

 後はほぼ原作通りの展開だった・・・




 夕と夜の丁度中間の空。

 夕日の赤らみとっくに去り、辺りには青の濃淡のみが残る。

 それをいいことに、空は公園まで降りてきて、すっかり水中の様相で、私は「青白い水の底」でございますといった調子。

 しまいに「つぶつぶ暗いあわが流れて」きたり「日光の黄金は、夢のように水の中に降って」きたりとカニ達の会話の進行に合わせて砂場の周辺はすっかり『やまなし』になりきってしまいました。

 僕は口から「ぽつぽつぽつと、続けて五、六つぶあわをはき」ながら、カニが「クラムボン」というたびに、こちらをチラチラ伺うのをなんとなしに見届けていました。
 
 足の下ではいつの間にか3匹になったカニ達の寸劇が佳境に近づいています。そして・・

「親子のかには三びき、自分らの穴に帰っていきます。

 波は、いよいよ青白いほのおをゆらゆらと上げました。それはまた、金剛石の粉をはいているようでした。

 私の幻灯は、これでおしまいであります。」
作品名:やまなしこうえんにて 作家名:或虎