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やまなしこうえんにて

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(フレッシュレスバーガーだったら面白いのにな)

 メニューにフレッシュネスバーガーとあるのを見つけて思った。

「こちらでお召し上がりですか?」

「いいえ」

「ではお持ち帰りですか?」

(ここでもいいえと言ったらどうなるんだろう?・・・まぁ今回はやめておこう)

「はい」

「ご注文お願いします」

 えーと

 今度は真面目にメニューを見る。いつも僕は3種類のハンバーガーを単品で注文する。むろん一人で食う。

 視線がメニューの迷路をふらふら迷いはみ出して、行き着いた壁の文字列。

本日の原材料の生産者

・じゃがいも  北海道 吉田さん
・トマト     岡山県 田中さん
・レタス     広島県 水口さん
・クラムボン


・・・・・

「クラムボン・・・・」

 思わず声に出して読んでしまった。

 何なんだ?クラムボンって・・・

「あの」

「はい」

「その・・・このクラムボンって何なんですか?」

 店員に尋ねてみた。店員は、¥0のスマイルを注文された時に見せるのと同じような曖昧な微笑みを浮かべるだけ。

「その・・・クラムボンが入ってるのはどれですか?」

 クラムボンを食ってみたい。その正体を知りたい。

「当店の全ての商品にクラムボンが入っております」

「クラムボン・・・・」

 呆然としていても仕方がないし、後ろに並ぶ人にも悪いので注文をする。

「すいません。やっぱりこちらで食べてもいいでしょうか?」

クラムボンをすぐに食べたい。

「かしこまりました。ではお持ちいたしますので、空いている席におかけになってお待ちください」

 僕は適当に空席を見つけ、ヘルニアを曲げて座る。心臓が激しく脈打つ。

(もうすぐクラムボンが来る)

 嗚呼、一体どんな容姿をしていてどんな味のする物なのだろうか?

「おまたせいたしました」

 来た!クラムボンを挟み込んだハンバーガーが来た!

 僕は恐る恐るトレイの上に置かれた3つのバーガーを確認する。クラムボンがはみ出している様子はない。そこで思い切って上のバンズを持ち上げてみる・・・・・レタス、トマト、肉・・・・いくら探ってもそれ以上の物は見当たらない。他の2つにも同様の検査をするがクラムボンらしきものは果たして見当たらない。

(どういうことだ?)

 店員がクラムボンを入れ忘れたのだろうか?それとも今日はたまたまクラムボンを切らしていたのだろうか?

 悩んでいても仕方がない。とりあえず食ってみよう。

 むしゃむしゃ。ぱくぱく。

 食べ終えた。

 しかしクラムボンと思われる物の歯ごたえや舌触りを感じることはできなかった。

 トレイを返却口に置きながら店員に尋ねる。

「あのー、本日の原材料の生産者の所のですね。クラムボンの生産者が空欄になっているんですけど」

 店員は頭を下げ不手際を詫びると空欄に木札をはめ込む。そこには・・・

 岩手県 宮沢賢治

 と書かれていた。

 僕はもうあれこれ詮索したり考えたりするのはよそうとだけ思った。

 帰り際に店の裏手で、クラムボンと書かれた空のトロ箱が山積みになっているのを見かけたが、そういうことなんだろうと決着してDVDを借りに行く。
作品名:やまなしこうえんにて 作家名:或虎