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本日は海星なり

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非可食的な愛


カウンターに座り
目の前の生簀をなんとなしに見ていると
ふと底にある5,6匹のナマコに目が行く

その中に1匹だけ一際赤いナマコがいる
他のナマコは真っ黒である

「大将?この赤いナマコって黒いのと種類が違うの?」
どーでもいいのだが気になったので聞いてみた

すると大将が

「いや同じ種類です。最初は黒かったんですけど・・・その・・・」

水槽の隅でエアーレーションの泡がゴボゴボ湧いている

「なに?」

「いや・・・そいつにだけ毎日愛しているって言ってたらいつの間にか赤くなったんです」

大将は作業の手を止めずに言った そして

「お恥ずかしい話です」

と照れた

俺は大将の照れの真意をはかりかねた

エアレーションの泡で遊ぶナマコを見た
そいつの赤み成分がなんなのか不明だが・・・

赤いナマコの不気味な様は
へんてこな愛嬌を伴っている

一体どっちが正面なのかも不可解なのだが
なんとなく大将の方を見つめている気がした

「これって・・・食べれるの?」
この発言がどういう反応を引き起こすのか確認したかった

大将の反応は劇的だった

「お・・・お客さんダメです。それ言っちゃあ」

「え?」

血相を変えて慄く大将の慌てっぷり

「え?え?」

ナマコの反応も劇的であった

そいつはもうすでにナマコとは言い難い異様な姿と化していた
赤い色のまま先端を大きく開き
体内から刺の付いた突起を無数にはみ出していた

うねうね

生簀のガラスを超えて聞こえてくる擬音は威嚇音なのだろうか?

「逃げてください!」

「え?」

「急いでっ!」

「お勘定は?」

「そんなこと言っている場合ですか。さあ早くっ!」

俺は大将の剣幕に押し出されるように店を出た

ガラガラ

・・・・・




「あっつ・・・」

日はまだ高く

夏の太陽が炎炎とアスファルトを熱していて

俺はビールを求めて

仕方なく他の店を物色する
作品名:本日は海星なり 作家名:或虎