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本日は海星なり

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海鼠博士 渡瀬則行の苦悩


博士はナマコに詫びた

「すまない」

博士の愛したナマコ
ナマコも博士を愛していた

*****

博士の研究

「愛を増幅させる遺伝子の特定」

博士のライフワークとも言える研究である

実験体はナマコ
水槽の底に沈むイボイボの群れ

博士はナマコのDNAを組み替えては
愛の増減を計測した

苦節30年

博士は或る一匹のナマコに巡りあう
実験体 N1314520 とナンバリングされたナマコ

そのナマコから計測される愛の量は
他のナマコの数千倍だった

「ついに見つけたぞ!」

博士は研究の末
愛の遺伝子を発見したのだ!

早速研究成果を学会に発表すると

「遺伝子操作で愛情深い生物を作る・・・あまりにも異端だ」

博士の研究は受け入れられなかった

さらに

様々な活動家や団体によって避難される

「遺伝子操作で愛し合う?なんて不自然な営みだ!」

博士は意気消沈した

「・・・この研究を続ければ、もっと人類は分かり合えるのに・・・」

その夢虚しく

研究所は封鎖され
博士は追放された

博士に残されたのは
N1314520だけである

*****

博士は詫びながらナマコを海に返す

「さよなら・・・愛していたよ・・・きっと」

ナマコはもそもそと沖へと這う
そうすることが博士への愛だと
ナマコは確信している

そのうち海の底に辿り着き
人類を遥かに凌駕する愛を
その身に滾らせて・・・

いつか出会いを得て
子を成し
その数を莫大に近づけながら
深海をより深い愛で満たしていく

「いずれ丘に登れかし!」

世界はきっと・・・
海から変わっていく・・・
作品名:本日は海星なり 作家名:或虎