本日は海星なり
海鼠博士 渡瀬則行の苦悩
博士はナマコに詫びた
「すまない」
博士の愛したナマコ
ナマコも博士を愛していた
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博士の研究
「愛を増幅させる遺伝子の特定」
博士のライフワークとも言える研究である
実験体はナマコ
水槽の底に沈むイボイボの群れ
博士はナマコのDNAを組み替えては
愛の増減を計測した
苦節30年
博士は或る一匹のナマコに巡りあう
実験体 N1314520 とナンバリングされたナマコ
そのナマコから計測される愛の量は
他のナマコの数千倍だった
「ついに見つけたぞ!」
博士は研究の末
愛の遺伝子を発見したのだ!
早速研究成果を学会に発表すると
「遺伝子操作で愛情深い生物を作る・・・あまりにも異端だ」
博士の研究は受け入れられなかった
さらに
様々な活動家や団体によって避難される
「遺伝子操作で愛し合う?なんて不自然な営みだ!」
博士は意気消沈した
「・・・この研究を続ければ、もっと人類は分かり合えるのに・・・」
その夢虚しく
研究所は封鎖され
博士は追放された
博士に残されたのは
N1314520だけである
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博士は詫びながらナマコを海に返す
「さよなら・・・愛していたよ・・・きっと」
ナマコはもそもそと沖へと這う
そうすることが博士への愛だと
ナマコは確信している
そのうち海の底に辿り着き
人類を遥かに凌駕する愛を
その身に滾らせて・・・
いつか出会いを得て
子を成し
その数を莫大に近づけながら
深海をより深い愛で満たしていく
「いずれ丘に登れかし!」
世界はきっと・・・
海から変わっていく・・・