緋色の追憶≪第一章≫
「そうだわ。わたしが名前をつけてあげる」
フォンテーネは涙を拭いて、明るく言った。
「え?」
少年は驚いて、御者台から振り返った。一瞬、二人のまなざしが絡み合う。フォンテーネはにっこり笑った。
「そう……。リヒト(光)、リヒトでどう?」
「そんな。もったいない」
少年はほおを赤らめてうつむいた。
「ううん。あなたはリヒトよ。わたしはそう呼ぶから」
フォンテーネは、しばしの間女中頭の顔を忘れて、次に少年に会える日のことを考えていた。
作品名:緋色の追憶≪第一章≫ 作家名:せき あゆみ