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学園大戦

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学園大戦

 放課後の教室に男子生徒と女子生徒が二人きり。しかし決していい雰囲気ではない、その正反対の光景が教室内では繰り広げられていた。
 男子生徒が女子生徒の髪を掴み、自分の方に引き寄せたかと思うと、顔面を殴りつけた。一回、二回、三回、ガツンガツン、ガツン。たちまち女子生徒の鼻からは血がこぼれ、顔が苦痛に歪んだ。それでも男子生徒はやめることは無い。殴る、殴る、殴る。嫌な音を立てて、女子生徒の鼻が折れた。続いては腹部への暴力へと移る。みぞおちの辺りを数発殴りつけると、女子生徒は床に崩れ落ちた。それにも全く構うことなく、彼の暴力は続いた。床に倒れた女子生徒の体を蹴り、体重をかけ踏みつけ、足を折りあばらをへし折った。女子生徒は口から血を流し、苦痛に涙を流しながら、男子生徒の暴力を受け続け、やがて動かなくなった。

 そこへ、教室の扉が突然開いた。女子生徒の苦痛のうめき声を聞きつけたからだろうか、教室に担任の教師(女性)が入ってきたのだった。女性教諭は教室内の光景を見て絶句する。女子生徒が倒れており、そこには血溜りができているではないか。
「どういうことなのこれは・・・これって・・・」
 担任として、教師として、女子生徒の救出を一刻も早くするべき状況ではあったが、あまりのことに、どうしていいか分からなくなってしまっていた。うわ言のように「どういう事なの・・・」と、つぶやきながら呆然と立ち尽くす女性教諭。その女性教諭の元に、ふらふらとした足取りで男子生徒が近づいてきた。そして、彼は担任めがけて、思い切り拳をふるった。担任を、殴りつけたのだった。
 彼は相手が女性ということもあり、暴力で相手に勝てると考え、女性教諭を殴りつけたのだろうか。しかし、そんな期待とは裏腹に、彼の拳は空を切った。男子生徒は続けて拳を繰り出した。一回、二回、ひゅん、ひゅん、いずれも空を切る。女性教諭は体育教師であり、陸上で国体優勝の経験もあった。一方の男子生徒はというと、体育の成績はいつも下位で、運動はとても苦手だった。相手が女性とみくびったところが、運動能力においては女性教諭の方が大きく勝っていたのだった。数回の拳が空を切り、男子生徒の呼吸が乱れてきた所に乗じて、彼女は反撃した。こん身の力で男子生徒の顔面を殴りつける。生徒への体罰は禁止されているとは言え、殴ることに迷いは無かった。教室の向こう側で倒れている女子生徒の状況を見る限り、ここで手加減するということは、自分の生命の危機を招くかもしれないという判断があったからだ。彼女は必死で、なりふり構わず男子生徒に応戦した。顔面を殴る、腹部に蹴りを入れる、腹部を殴る。無我夢中だった、自分を守るために。そして、男子生徒はついに力尽き、その場に倒れたのだった。

「こ・・・これは一体どういうことですか?」
 驚きの声を上げながら教室に入ってきたのは、学年主任の教諭(30代男性)だった。教室の乱闘の物音を聞きつけたのだろう。学年主任はその光景を見て驚きに目を見開く。男子生徒と女子生徒が、血を流し倒れているではないか。そして一人立ち尽くす女性教諭。思った、この女は狂っている。生徒を二人、体罰、否、暴力により立ち上がれない程の怪我をさせてしまったのだ。いや、あの二人の生徒はぴくりとも動かない。もしかしたら死んでいるのではないだろうか。一方の女性教諭は、この状況をなんと説明してよいものか分からず、何も言えなかった。それはそうだ、彼女自身、この状況を完全に理解しているわけではないのだ。彼女もまた混乱していた。
 しばらくの沈黙の後、学年主任にわいた感情は、怒りだった。大切な生徒をこんな目にあわせて、許せん。当然警察には突き出すが、その前に自分が制裁を加えてやる。主任は女性教諭の元に近づくと、怒りに任せて拳を振るった。いかに女性教諭が体育教師であるとは言え、女性である。一方学年主任は男性で、しかも体力の盛りの30代だ。その学年主任の暴力の前では、彼女もなす術がなかった。主任は女性教諭を殴りつけ、教室の床に沈めた。

「一体何をしているのですかな?」
 そう言いながら教室に教頭(40代後半男性・体型メタボ・一番最近した運動は一年前の登山)が入ってきた。教室では生徒二人、女教師一人が血の海に沈んでいる。
「これは・・・こんなことをしてただで済むと思っているのですか?主任」
 教頭はそう言って学年主任を睨み付けた。主任はこの状況に動転したのだろうか、なぜか先手必勝とばかりに教頭に襲い掛かった。教頭に向かって拳を繰り出す。しかし、かわされる、ガードされる、とにかく当たらない。
「全く・・・勘違いも甚だしいですねぇ。学年主任が教頭に勝てるとでも思っているのですか?」
 攻撃を避けながら、涼しい顔で教頭は言う。主任はさらに必死の形相で教頭を攻撃するが当たる気配はなく、逆に教頭の放ったミドルキック一撃、主任は教室の床に倒れ、動かなくなった。

「これはどういうことですかな?教頭先生」
 穏やかに教室に入ってきたのは、地域でも人格者で通っており、休日は趣味のマイカーの手入れを欠かさない校長(男性・50代中盤・体型痩せ型)であった。校長は教室を一瞥すると言った。
「おやおや、いけませんねえ教頭先生。これはおいたが過ぎているようですぞ」
 教頭は思う、大変なところを見られてしまったと。しかし、その大変な状況が、教頭を開き直りの境地へといざなった。もうこうなれば言い訳無用、校長を倒す。
 しかし、校長から見れば教頭の攻撃など涼風のようなものだった。校長は思う、学校で一番強いのは自分だ。自分に勝てるものなどいない。生徒は私が吹けば飛ぶ。ヒラ教師は赤子の手をひねるようなものだし、主任とて一撃で沈められるだろう。自分に一番対抗できるのが教頭であるが、そうは言っても、教頭と校長では、教頭が勝てるはずもない。校長は余裕の笑顔で教頭を血の海に沈めた。

 倒れている5人を見ながら、校長は満足そうに教室を見回した。
「当然の結果ですが、学園の秩序は今日も平和に保たれたわけですな」
 一人、そうつぶやいた。ところが。
「もう勝ったおつもりですか校長・・・」
 そう言いながら、一人起き上がってくる者がいた。女性教諭だった。
「おやおや。そのお怪我で起き上がってくるというのは見上げたものですが、しかし、まさか私と闘うおつもりですかな?あなたのために言うのですが、やめておいた方がよろしい。あなたでは私はおろか、教頭先生にさえ、いや、学年主任にさえ勝つことはできませんよ。命は大切にしましょう」
 余裕たっぷりに校長は命の大切さの道徳教育を施した。
「校長先生、本当に、本当にそうでしょうか。私がわざと倒れたまま気を失っているふりをして機会を窺っていたとしたら?最後に校長が残ることは誰だって予想がつきます。その機会を私が狙っていたとしたら?校長と二人きりになるこの状況を待っていたとしたら?」
「もし私に勝てるとお考えなら、ただただ愚かしいですな」
 校長は完全に女性教諭を馬鹿にしきっている。女性教諭はポケットに手を入れ、何かを取り出し、それを見せながら言った。
「校長・・・これが何かお分かりですか?」
 それは香水だった。
作品名:学園大戦 作家名:ゆう