神様ソウル3
のぼせた時のような気怠さが私の全身を包んでいた。
「ねぇ、課長」
キッチンでせっせと食器を洗っている課長に声を掛ける。
「んー」
「こっち来て」
「ちょっと待て。もうすぐ洗い物終わるから」
「早く」
熱い衝動が私の体を内側からつねり上げて急かし続けている。もうこちらから課長の元へ向かおうかと立ち上がろうとした時、課長がエプロンの裾で濡れた手を拭いながらキッチンから出てきた。
「なんだよ」
「……座って」
私の声色から何かを感じとったのか、課長は真剣な面持ちにでソファに腰を下ろした。私もその隣に、変に思われない範囲で出来るだけ彼の近くに、座った。
「あの、真面目に聞いて欲しいんだけど」
「うん」
「私、課長のことが好き、みたいなんですよね」
意外にすんなりとその言葉は出てきた。
「課長っていうのはその、テミスの上司の人のことだよな?里見ヒロトじゃなくて」
「うん。でも、寄り代の性格ってその魂に大きく左右されるから、意味合い的には里見ヒロトを好きって言っても差し支えはないかも」
現に私は今、里見ヒロトの前でもこうして緊張して胸を高鳴らせてしまっている。
「そっ、か……」
ヒロトは私の言葉の一言一言に頷き、噛み締めるように耳を傾けていた。そして頭をかきながらためらいがちに言った。
「それじゃ、キスするか」
「え」
胸の締め付けがいっそう強まり息苦しさが増す。ヒロトとまともに目を合わせられない。
「変な意味じゃないよ。今はレイカの呪いに掛かっている状態だし、自分がちゃんとものを考えられているかどうかもわからない。だからまずはそれを解かないと」
「……そですね」
しばらくの沈黙の後、座り直して二人そろって正面から向き合う状態を作る。
「それじゃ……いくよ?」
「お、おう」
ヒロトの肩をぎゅっと掴んで、体を引き寄せていく。よくわからないけど、こういうのって普通は男の方からするものじゃないのか?ある程度の距離までヒロトの顔が近づいてくると、私はゆっくりとまぶたを閉じた。こうしてキスした方が唇の感触に集中できると思ったからだ。ヒロトの唇までの距離はもう本当にいくらもなかった。しかしその感触はいつまで経っても訪れない。もはや怖くて恥ずかしくて目を開けることもできなず、時間が何倍にも引き延ばされて一瞬一瞬がとてつもなく長く感じられる。
いい加減じれったくなった私は思い切って顔を前へ進めた。その時。
私の脳がその部分、唇に何かが触れたことを認識した。その形、柔らかさ。まさしくヒロトの唇だった。やや熱を帯びたそれは、形を歪ませて私の唇をぴったり受け止めていた。
更に深く交わろうと体重を傾けたところで私は本来の目的を思い出し、接触した部分を通じてヒロトに力を送ることを試みた。
「んっ……」
なるほど、確かに普段よりもずっと多くの力が放出されているのを感じる。
もっと深く交わりたい。私は自分の欲求に従い、舌を伸ばし先端でヒロトの唇を優しくなぞり上げた。すると閉じていた隙間がおもむろに開き彼の舌が恥ずかしそうに顔を出した。私はすかさず自分のものをそれに絡ませる。
「んん……」
半開きになった口から声が思わず漏れてしまう。先程のを遥かに上回る量の力の流出。体から力が抜けていってしまう。粘膜同士が触れ合って擦れる感触も堪らなく気持ちいい。
しばらく夢中になってキスしていると、私は自分の力が底を尽きかけていることに気づいた。この甘美な時間が終わってしまう。私はより強い交わりを求めて更に深く自分の唇を重ね合わせた。
それからどれ程時間が経過しただろうか。私はヒロトとの繋がりを解き、上がった呼吸を整えながら彼の瞳を見つめた。